スピードスケートのトラックはダブルトラックが使われる。これはインコースまたはアウトコースからスタートして,トラックを半周したところでインとアウトが入れ替わる方式だ。 500mのような短距離のレースの場合,インスタートアウトスタートでタイムに差があるではないかと言うことが問題になる。
トラックを一周するとき。後半のカーブの方がスピードが上がっている。なので後半を半径の大きなアウトコースを走る。つまりインスタートの方が有利ではないかということだ。実際,スピードスケートと横Gでやった計算を使うと,時速約60kmでカーブに入ったとき,インとアウトコースでは横方向の加速度が15%ほど違う(インコースの方が大きい)。そのため1998年の長野オリンピックの頃はインスタートとアウトスタートの2回走って,その合計タイムで順位を争っていた。
しかし最近の 500mは1回のレースで順位を決めている。技術や用具の発達でインスタートアウトスタートにそれほど差がないと考えられるようになったからということだ。
用具の発達の一つにスラップスケートというのがある。これを考えてみよう。
スラップスケートというのはスケート靴の踵と刃(ブレード)が離れる機構をもった靴のことだ。図の左はスラップスケートで滑走している様子を表している。後方(スケートの場合まっすぐ前にはキックできないので斜め後方だが)に強く蹴り出して前進するためには,踵をあげて大きく前傾した方がよい。スラップスケートの場合,踵をあげてもブレードは氷のから離れずに氷を蹴ることができる。
真ん中は踵とブレードが一緒に持ち上がるときの様子。踵をあげるとブレードの前側だけが氷をける。すると氷に対する圧力が大きくなって氷を削ってしまうだろう。そうなると氷とブレードの摩擦が大きくなってスピードが落ちてしまう。
スラップスケートでないときにブレードが氷から離れないようにするにはどうすればよいだろうか。右の絵がその様子だ。ブレードを氷の上に残すためには踵を上げることができず,その結果蹴り足を十分に伸ばすことができない。結局氷に力を伝える時間が短くなっている。力学の言葉では力×時間を力積と言い物体の運動量の変化になる。今の場合は速度の変化(増加)と考えることができる。
スラップスケートは氷を蹴る力を効率よく選手速度の増加に変えることができる。もちろん従来のスケート靴とは滑る技術も違のでそれに適応するための練習時間が必要だ。1998年の長野オリンピックはスラップスケートが使われ始めた頃だった。スラップスケートの効果についての科学的な解析はすぐになされたようだ。それを踏まえて長野オリンピックにどう対応したのか,選手,科学者,開発メーカーも含めた興味深い研究記録が残っている。
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