ロシアのウクライナ侵攻から半年になろうとしている。いまだに停戦に向けた進捗がみられないのは,残念な限りだ。
ロシアの侵攻開始から現在の状況について,まるでそれを予言したような論考を見つけた。海幹校戦略研究2015年12月号に「抑止概念の変遷 多層化と再定義」という論考がある。そのなかで,冷戦期の北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構(WTO)の関係の考察が今のウクライナとロシアの関係に非常によく当てはまる。
それによると;
1983年にミアシャインマーという人が「通常戦力と抑止」を出版している。(John Mearsheimer, Conventional Deterrence, Cornell University Press, 1983.)
冷戦期WTOはNATOより通常戦力ににおいて圧倒しており,開戦となるとWTOが電撃的勝利と収める公算が高いとされていた。ミアシャインマーの考察はそれに対する反論であり,以下のような話だ。
- NATOの通常戦力は劣勢であっても有効な展開によってWTOが電撃的に勝利することはできない。
- WTOは限定的勝利をしたのち,それを防御する方に回らざるを得えず,それ以降消耗戦となる。
ミアシャインマーは以上のことからNATOの戦力は劣っていても抑止力として機能すると述べている。さらにNATOは精密誘導兵器によって状況をさらに好転できる。つまり抑止力はさらに強化されると期待している。
この話を読んで,ロシアのウクライナ侵攻の状況と比較したくなるのは私だけではないだろう。今のウクライナの状況はこれが抑止力とならなかった場合を端的に表している。
ウクライナで起こったことは,
- ロシアは当初キーウを2週間程度で電撃的に制圧すると考えて侵攻したが失敗した。
- その後東部を侵攻したがウクライナの抵抗にあって膠着状態が続いている。
- HIMARSに代表される精密誘導兵器によってロシアは兵站を中心に大きな打撃を受けており,苦戦していると言われている。
ミアシャインマーの論説から抑止力を除くと今のウクライナの状況はまさに想定通りだ。
なぜロシアは侵攻したのか。ロシアは何を見誤ったのか。西側諸国が最初からウクライナに対する今のような軍事支援を明示すれば,ロシアは侵攻しなかったのか?
歴史にたらればは通用しないが。。
武力の行使の抑止には武力による抑止力の強化しかないというのが現実なのか。これはこれで,悲しい現実だ。