2022年2月26日土曜日

人権とか民主主義とか

 なぜ人権を尊重するのか。客観的な理由はない。人間の作る社会集団の規模がとても大きくなっている。数十億の人が経済的、政治的に強く繋がった共同体をつくっている。そのような非常に大きな共同体が持続的に繁栄していくための基盤として人権の尊重、民主主義を共有する。現在の世界はこの思想を共有する集団が多数派となっている。

 人権主義や民主主義はそれが正しいと理由で多数派なのではなく、歴史の中で勝者となったから多数派を構成している。私は構成員の1人としてこの考え方を支持している。人権主義や民主主義という宗教の信者と言うこともできる。

ここ数ヶ月世界で起こっている事は、人権主義や民主主義が歴史的な勝者と言うのは時期尚早と言う事なのだろう。。

2022年2月24日木曜日

冬のスポーツの物理7:スケートはなぜ滑る?

 冬のスポートの物理についていくつか調べていて,スケートやスキーが滑る理由はどうなっているのだろう。よく分かっていないという話を聞いた記憶があるけど。。

少し調べたのだが,これは,,,禁断のネタだった。。。とても難しく,今でも解決しているのかどうか分からない。

以前はこんな説があった。

1)圧力融解説。

圧力をかけると氷がとけてスケートの刃と氷の間の水が潤滑剤になるという説。しかし人がかける圧力は小さすぎとか,この説では説明できない低温でも氷の上は滑るなど。現在では否定されている。

2)摩擦融解説

スケートの刃と氷の間の摩擦で氷がとけて滑るというせつ。しかし,滑りやすいと摩擦は小さくなって氷が溶けにくくなるという矛盾がある。

少し調べてみると2021年にこのことについての論文が2本見つかった。どちらもPhysical Review Xという有名な論文誌に掲載されているのだが,この2つ違うことを言っているように見える。ちょっと紹介してみよう。


1つはNanoreollogy of Interfacial Water during Ice Gliding(氷滑走における表面水のなのレオロジー)*

レオロジーというのは日本語で流動学。物体の変形や流れの研究分野。

この論文は氷と物体との間にある水(Interfacial Water)の特性を調べている。その結果,氷の物体の水は普通の水とは性質が大きく違う粘性を持っていると結論している。つまり油のような性質をもっているということだ。氷が滑るのは氷と物体の間に油があるような状況ということのようだ。この粘性は温度とともに代わり,もっとも滑りやすいのは-10℃くらいと言っている。


もう1つはFriction on Ice: How Temperature, Pressure, and Speed Control the Slipperness of Ice (氷上の摩擦:温度,圧力,速度がどのように氷の滑りやすさに関係するか)**

この論文は氷の摩擦係数を温度,圧力,スピードを変えたいろいろな条件で調べて,それと分子運動学の計算を比較している。その結果から,

「氷の内部は分子同士がしっかり結合した結晶だが,表面には動きやすい水分子が存在する。そのおかげで氷は滑りやすい。」

という説だ。この効果は氷の温度が低いと小さくなり高いと大きくなる。なので温度は高い方が良いのだが,温度が融解点(0℃)に近づくと氷の表面が削れら足りして変形しやすくなって,摩擦は大きくなる。彼らの研究では-6℃くらいが最も滑りやすいとなっている。


実際のスピードスケートで使われる-5℃くらいの氷温の摩擦はどちらの論文も同程度の結果のようだ。一方は摩擦に関与する潤滑水の性質を直接調べたもの,一方は摩擦の測定と計算の比較なので違う手法なのだが,2つは同じことを言っているのだろうか?

同じことを違う側面から見ているような気もするが,専門外の論文なのでよくワカライ。。。

*  Physical Review X 11, 011025(2021)

**Physical Review X 9, 041025 (2019)


2022年2月21日月曜日

冬のスポーツの物理6:スラップスケート

 スピードスケートのトラックはダブルトラックが使われる。これはインコースまたはアウトコースからスタートして,トラックを半周したところでインとアウトが入れ替わる方式だ。 500mのような短距離のレースの場合,インスタートアウトスタートでタイムに差があるではないかと言うことが問題になる。

 トラックを一周するとき。後半のカーブの方がスピードが上がっている。なので後半を半径の大きなアウトコースを走る。つまりインスタートの方が有利ではないかということだ。実際,スピードスケートと横Gでやった計算を使うと,時速約60kmでカーブに入ったとき,インとアウトコースでは横方向の加速度が15%ほど違う(インコースの方が大きい)。そのため1998年の長野オリンピックの頃はインスタートとアウトスタートの2回走って,その合計タイムで順位を争っていた。

しかし最近の 500mは1回のレースで順位を決めている。技術や用具の発達でインスタートアウトスタートにそれほど差がないと考えられるようになったからということだ。

 用具の発達の一つにスラップスケートというのがある。これを考えてみよう。

スラップスケートというのはスケート靴の踵と刃(ブレード)が離れる機構をもった靴のことだ。図の左はスラップスケートで滑走している様子を表している。後方(スケートの場合まっすぐ前にはキックできないので斜め後方だが)に強く蹴り出して前進するためには,踵をあげて大きく前傾した方がよい。スラップスケートの場合,踵をあげてもブレードは氷のから離れずに氷を蹴ることができる。

真ん中は踵とブレードが一緒に持ち上がるときの様子。踵をあげるとブレードの前側だけが氷をける。すると氷に対する圧力が大きくなって氷を削ってしまうだろう。そうなると氷とブレードの摩擦が大きくなってスピードが落ちてしまう。

スラップスケートでないときにブレードが氷から離れないようにするにはどうすればよいだろうか。右の絵がその様子だ。ブレードを氷の上に残すためには踵を上げることができず,その結果蹴り足を十分に伸ばすことができない。結局氷に力を伝える時間が短くなっている。力学の言葉では力×時間を力積と言い物体の運動量の変化になる。今の場合は速度の変化(増加)と考えることができる。

 スラップスケートは氷を蹴る力を効率よく選手速度の増加に変えることができる。もちろん従来のスケート靴とは滑る技術も違のでそれに適応するための練習時間が必要だ。1998年の長野オリンピックはスラップスケートが使われ始めた頃だった。スラップスケートの効果についての科学的な解析はすぐになされたようだ。それを踏まえて長野オリンピックにどう対応したのか,選手,科学者,開発メーカーも含めた興味深い研究記録が残っている。


2022年2月19日土曜日

冬のスポーツの物理5:スノーボードクロス バンピング

 スノーボードクロスやスキークロスの技術にバンピングというのがある。コース上のウェーブという波打ったところで加速する技術だ。ウェーブはコースが波打っているが全体では緩斜面になっている。原理的にはコースに傾斜がなくても加速できる。この仕組みを考えてみよう。



原理はフィギュアスケートのスピンと同じだ。スピンでは腕をたたんだが,スノボクロスでは代わりにウエーブの底で立ち上がることによって加速している。スピンのところで話した角運動量保存保存則より,続回転速度を速くするにはで計算した心力に逆らってした仕事が速度に転嫁された,という方が直感にあっているかもしれない。とにもかくにも,速度が大きいウエーブの底で立ち上がるのがコツだ。その後ウエーブを上ると速度が落ちるがウェーブの底で加速したぶんだけ速度がましている。2番目の頂点では素早くしゃがみ込む。すると,次のそこでもう一度立ち上がって加速することができる。後述するようにウェーブの頂点でしゃがみ込むときに速度は変化しない。選手はこれを繰り返して加速しているのだ。いくらでも加速できるわけではない。頂点での速度が速すぎると板が浮いて(ジャンプして)しまい,次のウェーブでの加速にうまくつながらない。


計算してみよう。(高校3年生レベルの物理かな)

コースのモデルとして図のような半径$R$の円弧が組み合わさったものを考えよう。ウェーブの頂点と谷の高さの差$H$とする。最初の頂点で選手は止まっていたする。選手の体重(質量)を$m$,重力加速度を$g$とすると,滑りおりた底での速度$v_1$は力学的エネルギー保存則から

$\frac{1}{2}mv_1^2=mgH$

$v_1=\sqrt{2gH}$    

となる。ウェーブの底で立ち上がることによって,選手の重心が$h$だけ高くなったとする。これは選手の回転の半径が$R$から$R-h$に変化したことになる。立ち上がった後の速度を$v_h$と書くと,続回転速度を速くするにはの(1)式で$v_{R_0}$を$v_1$,$R_0$を$R$,$R_1$を$R-h$に置き換えれば求まる。

$v_h=\frac{R}{R-h}v_1=\frac{R}{R-h}\sqrt{2gH}$

次のウェーブの頂点での速度を$v_2$として力学的エネルギー保存則を考えると

$\frac{1}{2}mv_2^2=\frac{1}{2}mv_h^2-mgH$

$v_2^2=v_h^2-2gH=\frac{R^2}{(R-h)^2}2gH-2gH=2(\frac{R^2}{(R-h)^2}-1)gH$

$v_2$が正になるのはすぐにわかるだろう($1<\frac{R}{R-h}$)。2番目の頂点では速度が増えたわけだ。

 次に2番目の頂点でしゃがみ込むのだが,これは重心が重力中で落下しているだけなので滑走速度は変わらない*。逆に重心の落下より速くしゃがんでしまうと足が雪面から浮いてしまう。

ウェーブの頂点で選手を下向きに引っ張っている力は重力$mg$だ。ウェーブの頂点で斜面にそって滑っている選手は半径$R$の円運動をしている。このとき選手が感じる遠心力は$m\frac{v_2^2}{R}$になる。これが重力より大きくなると,選手は雪面から離れてしまい,頂点でジャンプしてしまい次のウェーブでうまく加速できない。選手はこれを調整しながらこバンピングしているわけだ。

具体的な数値はどれくらいなのだろう。コース設計の情報はわからないが,

$H=1.5m$ 人の背丈より少し低いくらい。

$R=5m$   動画を見た感じ?

$h=0.5m$ しゃがんだ姿勢と立った姿勢で人の重心の位置がこれくらい変わる?

これらを使って計算すると

$v_1 \approx 5.4 m/s$

$v_h \approx 6.0 m/s$

$v_2 \approx 2.6 m/s$

1回バンピングすると,速度が$2.6m/s$増えるという結果になった。それらしい数字だろうか?またこの割合でバンピングを繰り返すと3回目には足が雪面を離れてしまうので,調整しなければならないという結果になった。それらしい??

*もし選手の足が雪面から離れないような工夫をして(たとえばレールの上に足を固定して滑るとか)力を使って落下速度より速くしゃがめば加速できるが,,,


おまけ

 バンピンングと同じ原理は他の競技や遊具にも使われている。

ブランコの立ち漕ぎはバンピンングの原理そのままだ。ブランコを前後に振ったところでしゃがみ込み、最下点で立ち上がる。座り漕ぎの場合はあまり目立たないが原理は同じだ。後に振ったところで足を曲げ、最下点から前に振り上げるあたりで足を伸ばす。これによって重心の位置を上げている。さらに体全体を後ろに反ることによってより重心を高くしている。立ち漕ぎの場合も屈伸をする代わりに、最下点を通って前方へ振り出すところで後ろに反るようにして足を前に出す動作で漕ぐこともできる。

もう一つの例は、鉄棒の大車輪。鉄棒の上から体を振り下ろすときは、体を後ろに反り気味にしておいて、最下点から前に振り上げる時に足を前に出して体を曲げる。この動作で重心を持ち上げている。大車輪の映像を見るとこの時回転の速度が上がっているのがわかる。この動作は体操用語で「あふり」と言うそうだ。原理はバンピンングやブランコと同じだ。


2022年2月17日木曜日

冬のスポーツの物理4:スキージャンプ

 スキーのジャンプ競技は空力との戦い。複雑すぎて定量的な話はとても無理。

まず,参考文献。スパコンも動員してジャンプの空力を研究した話だ。このお話は参考文献の私なりの解釈です。

よく知られているように,スキージャンプはジャンプといっても斜面に沿って落下しているようなものだ。踏切では体を大きく前に投げ出して,ほとんど水平に近い形になる。しかし、そもそも飛んでいく方向が下向きなので,進行方向と体の角度,いわゆる仰角はとても大きくなる。これがジャンプの特徴だ。図はその様子を表している。


 ジャンプの空力特性は飛行機の翼と同じように考えることができる。進行方向に向かって仰角をとることによって翼(体)の下側の空気が曲げられ,下から押される力が働く。忘れてはいけないのは翼(体)の上を通る気流も体に沿って曲がるということだ。これをコアンダ効果という。これによって翼(体)には上に引っ張り上げられる力もはたらく。飛行のときにはこれらが合わさって,気流から進行方向と反対向けに受ける抵抗「効力」と,上に持ち上げる力「揚力」が発生する。

               参考文献をもとに筆者作成

 飛行機の飛行とスキーのジャンプは仰角に大きな違いがある。飛行機はエンジンを使って前向きの推力を得ている。なので仰角が小さくても充分な揚力を超えることができる。この状況で仰角が大きすぎると,効力、すなわち進行方向に対する抵抗が大きくなるので得策ではない。

 スキーのジャンプはエンジンのような推力をもたない。それに代わるものは重力だけだ。その結果飛行機と比べると大きな仰角をとって揚力を得ている。飛行機が水平飛行しているとの仰角は3°から5°くらい。離陸のときは大きな仰角をとって揚力をえるがそれでも15°程度のようだ。スキーのジャンプの仰角は最大で40°近くになる*。仰角が大きくなればなるほど揚力も大きくなるのだがどこまでも大きくすればよいというものではない。仰角が大きすぎるとコアンダ効果が働かなくなり,体の上側の空気が体にそって流れなくなる。これは飛行機の翼でも起こりうることでいわゆる失速状態だ。こうなってしまうと安定した飛行ができなくなり落下してしまう。ジャンプで遠くに飛ぶコツはいかにしてこの安定した飛行体勢を続けるか。適切な抗力と揚力をえる仰角を維持するかだ。適切な仰角は時々刻々と変化していることを忘れてはいけない。

 スキージャンプのもう一つの大きなポイントは踏み切り(サッツ)。選手は時速90キロ近くで踏み切って飛行体勢に移る。そのときいかに早く安定した飛行体勢をとることができるかが勝負のポイントになる。それだけではない。ジャンプ台を滑り降りている姿勢から飛行体勢になるときには,体の形状が大きく変わる。そのときは体の後ろ側の気流も大きく乱れるだろう。理想的な翼の形とはかけ離れている状態だ。いかにして気流をを乱すことなく素早く安定した飛行体勢に移るか。とても難しそうだ。

 助走から踏み切りで安定した飛行体勢に移る。その飛行体勢を長く安定に維持する。これがジャンプの主要なポイントのようだ。適切な飛行体勢,例えば仰角は時事刻々と変わっている。風も吹いている。風の状況がジャンプの結果に大きく影響するのはテレビ中継を見ていてもよくわかる。

ところでいいジャンプの条件は調べるとある程度分かる。だが選手はそれを実現するためにどういう動作をすれば良いのだろう?どのようなトレーニングをすれば良いのだろう?

滑走から飛行体勢への大きな変化。飛行中も風の変化。一流のジャンパーはこの状況を的確に把握して対応し遠くに飛ぶ技術を身につけている。どうやっているのだろう。ビデオ,最近では流体力学のシミュレーション,それらを見ながら試行錯誤して理想的な飛び方を体得して行くしかないのだろうか。小林陵侑選手に代表される一流選手と他の選手は何が違うのかなあ。。。

「風をつかむ能力に秀でている?それは一体何?」


*仰角は飛行中に大きく変化する。踏み切りのとき選手は下向きに飛び出すので仰角は負になる。そのあとすぐ正の角度になる。着地直前には40°近くになるようだ。


冬のスポーツの物理3:続回転速度を速くするには

 これは,冬のスポーツと物理1:フィギュアスケートのスピンの続き。

計算ばかりなので,興味ない方はスキップしてください。(^^;)

前回の後半で,角運動量保存則を利用してスピンを早くすると,回転のエネルギーは増えることを言いました。実際に計算してみよう。内容は大学初年程度の物理になります。



まず,質量$m$の質点が半径$R_0$で回転しているとします。質点の速度を$v_{R_0}$としましょう。このとき角運動量は$運動量×回転半径$となります。なので角運動量$h$は

$h=mR_0v_{R_0}$

運動エネルギーを$E_{R_0}$と書くと

$E_{R_0} = \frac{1}{2}mv_{R_0}^2$

です。

次にこの質点の回転半径が$R_1(<R_0)$になって,速度も$v_{R_1}$なったとします。角運動量が保存していると,

$mR_1v_{R_1} = mR_0v_{R_0}$

なので,

$v_{R_1} = \frac{R_0}{R_1}v_{R_0}$      (1)

となります。このとき,運動エネルギーを$E_{R_1}$と書くと

$E_{R_1} = \frac{1}{2}mv_{R_1}^2=\frac{1}{2}m\frac{R_0^2}{R_1^2}v_{R_0}^2$   (2)

$R_1<R_0$なので運動エネルギーは$\left(\frac{R_0}{R_1}\right)^2$倍になっています。

運動エネルギーの差は

$E_{R_1}-E_{R_0}=\frac{1}{2}m(\frac{R_0^2}{R_1^2}-1)v_{R_0}^2$ (3)


次に質点に働く力から質点の回転半径を変化させるために必要なエネルギーを計算しましょう。

半径$r$ ($R_1 < r < R_0$)のときの質点の速度$v(r)$は(1)から

$v(r)  = \frac{R_0}{r}v_{R_0}$

このとき,質点を回転させるために必要な力(向心力と言います,遠心力と反対向きで大きさは同じ)は

$F(r)  = -m\frac{v(r)^2}{r} = - m\frac{R_0^2}{r^3}v_{R_0}^2$

です。負号は回転中心方向に引っ張る力という意味を表しています(このあたりをちゃんとやるには極座標の知識が必要になります)。

この力が働いているとき,質点の回転半径を$R_0$から$R_1$まで変化させる(質点を引っ張ることになります)ために必要な仕事を計算します。

$ W = \int_{R_0}^{R_1} F(r) dr = -mR_0^2v_{R_0}^2\int_{R_0}^{R_1} \frac{1}{r^3} dr = -\frac{1}{2}mR_0^2v_{R_0}^2\left[-\frac{1}{r^2}\right]_{R_0}^{R_1}$

$= \frac{1}{2}mR_0^2v_{R_0}^2\left[\frac{1}{R_1^2}-\frac{1}{R_0^2}\right]=\frac{1}{2}mv_{R_0}^2\left[\frac{R_0^2}{R_1^2}-1\right]$

予想通り(3)と同じ結果になりました。


2022年2月16日水曜日

冬のスポーツの物理2:スピードスケートと横G

男子の500mの選手は後半のカーブを時速60km程度で走る。先日の北京オリンピック,銅メダルを獲得した森重選手は時速58㎞くらいだった。

 $ v = 50km/h \approx 16.1 m/s $

スピードスケートのトラックのカーブは図のようになっている。


森重選手は内側のレーンの真ん中位を走っていた。そのときのカーブの半径を約$r\approx28m$と考えよう。したがって森重選手がうける遠心力は

$\frac{v^2}{r}=\frac{16.1^2}{28}\approx 9.3 m/s^2$

重力の加速度は約$9.8m/s^2$なのでほとんどそれに近い数字だ。つまり自分の体重に匹敵する力に対抗してカーブを曲がっているのだ。少しのミスで外側にコースアウトしてしまうのも納得できる気がする。
ところで自動車のタイヤの摩擦係数は乾いたアスファルト上で0.8くらいらしい。すると車が耐えられる(曲がることができる限界の)横gは0.8gと考えることができる。

スピードスケートの選手は,乾いたアスファルト上のでの自動車の限界を超えた急カーブを氷の上で切っていることになる。

冬のスポーツと物理1:フィギュアスケートのスピン

北京冬季オリンピックも後半に入った。オリンピック競技と物理の関係を書いてみる。

その第1弾。

「フィギュアスケートのスピンで,始め腕を大きく広げてスピンをして,そのあと腕を体の方に畳むと回転が速くなるのは角運動量保存則の結果」というのは物理の授業あるあるとして(一部では?)有名な話。

角運動量というのは

角運動量=慣性モーメント×回転の速度

で定義される量だ。

回転の速度は1秒間に何回転と考えて差し支えない(物理業界では1秒間の回転数×2πだが気にしないことにする)。

慣性モーメントは物体の回転のしやすさ/しにくさを表す量。これが大きいと回転しにくい(回転しているものはとまりにくい)。質量が同じでも回転半径が大きいと大きくなる。例えば質量が同じ輪(円環)でも半径の大きな輪の方が回転を与えにくく,逆に回っている輪はとまりにくい。

この角運動量が運動中変わらないというのが運動量保存則だ。フィギュアスケートのスピンではこればほぼ成り立っている。例えば腕をひろげた状態と畳んだ状態で慣性モーメントが2倍違うと回転の速度も2倍違うことになる。

実際はどうなのだろう。人の体型はとても複雑なので簡単なモデルで考えてみる。

図のように,人を体重(腕も合わせて)60kg,体の形は半径20cmの円筒とする。この円筒から長さ60cmの円筒形の腕がでている(円筒の中心から測ると80cm)。腕の重さはそれぞれ3kgとしよう(腕の重さは上腕,下腕,手を合わせて体重の5%くらいだそうだ)。腕を畳んだ状態では半径20cmの円筒形になる。

 この形で腕を伸ばした状態の慣性モーメントを計算してみると約1.2[kg m^2]となった。腕を畳んだ状態では約2.8[kg m^2]。つまり腕を伸ばした状態とたたんだ状態で慣性モーメントは2.3倍違う。角運動量保存則を当てはめると腕を伸ばしたときと畳んだときで回転のスピードが2.3倍!になるという結果だ。

 ところで角運動量は変わらないが,回転のエネルギーは腕を広げたときよりも畳んで早く回転しているときの方が大きくなってる。腕は遠心力で広がろうとするのでそれに逆らって畳んむために力を使って腕を引っ張りこまなければならない。そのとき腕の力を使って行った仕事(エネルギー)が回転のエネルギーに転嫁したと考えることができる(エネルギー保存則!)この部分,こちらで大真面目?に計算してみました。