2016年8月29日月曜日

飛行機の中で放射線測定

   昨日2016年8月28日,グラショー博士の講演会出席のため東京に行ったのですが,行きの飛行機の中で放射線をやってみました。
 高度が高いところでは宇宙線が増えるので,飛行機の中で放射線を測定するとその様子をを見ることができます。 これまでに2度,2007年と2011年に広島ー羽田間のフライトで測定したことがあります。そのデータはこれまでも,講演会などでお見せしたことがあります。ですが,その頃は離着陸の時は電子機器の電源を切らなければなりませんでした。2014年に規定が緩和されて,電波を出さない機器は電源を切らなくてもよくなったのですが,緩和後は測定を行ったことがありませんでした。ちょうど前日の27日に高校生向けのイベント,ひらめき☆ときめきサイエンスを行いました。その時,放射線測定の実験をするために,放射線測定器を「はかるくん」を借りたのでそれが手元にありました。週末にかかったので返却には1日余裕があります。そこで,「はかるくん」を持って飛行機に乗ることにしました。

はかるくんCP-100 (クリアパルス社製です)

 飛行機乗ってる間,数分ごとに測定値をメモしなければいけません。周りの方からどう見られるかとちょっと不安だったのですが,幸い?なことに日曜日の朝,羽田行きのフライトは空席が多く,隣の席も空いていました。まわりに怪しまれることなく?数値をメモすることができました。
 搭乗してから羽田空港に着くまで約1時間,1分毎にひたすらノートに書き続けました。

測定結果をグラフにしたのが下の図です。
高度のデータもほしかったのですが,あいにく搭乗したフライトのデータはwebにありませんでした。前日の同じ便のデータをFlightAwareから入手できたので,離陸時間を合わせてグラフに載せましたが,巡航高度が同じかどうか分からないので目安です。



 広島空港のゲートゲートで大体0.08マイクロシーベルト毎時(μSv/h)位の放射線量があります。これは主に建物の壁や床から出てきているガンマ線です。土中にはカリウムという元素が含まれていますが,天然のカリウムの約0.0117%はカリウム40と言うガンマ線を出す放射線同位元素です。地上やコンクリート製の建物の中にいるときは,そのガンマ線を浴びることになります。飛行機乗ると少し減ります。これは壁に囲まれていないのと,地面から遠ざかったためと考えられます。乗った飛行機(B767 )の機体はほぼアルミ合金なのでカリウム40を含んでいません。

 離陸すると地面から遠ざかるので地面からのガンマ線は来なくなります。低高度では,宇宙線中のガンマ線は少ないため,「はかるくん」の表示は一時的に減少します。しかし上昇するにつれて宇宙線中のガンマ線も増えて行きます*。

 離陸してしばらくすると,巡航高度になります。このフライトの巡航高度は分からないのですが,入手できるデータ(前日の同経路)は3万9,000フィートでした。広島空港から羽田空港のフライトでは巡航時間は時間は20分くらいしかありません。

 巡航が終わって羽田空港へ向かって高度をさげ始めると放射線量も減ってきます。下降するときは上昇に比べて少し時間をかけて降りて行きます。それと羽田空港へおりるときは海の上を飛行します。なので宇宙線中のガンマ線の寄与がほぼなくなって,かつ大地からのガンマ線の寄与が少ない時間が長くなります。

 着陸すると大地からのガンマ線によって線量は,0.02μSv/hくらいになります。これは広島の時とあまり変わりません。飛行機から降りて空港のターミナルビルの中に入ります。羽田空港ではその時も0.02μSv/hくらいです。これは広島空港と少し違います。広島空港では0.08μSv/hくらいでした。羽田空港の方がかなり低いです。空港のビルに使われているコンクリートの砂の違いだと考えられます。西日本の地質は花崗岩質であることが知られています。花崗岩にはカリウムが含まれているので,ガンマ線が多くなります。それを反映して大地からのガンマ線の量は日本に比べて西日本の方が多いということがわかっています。コンクリートの材料である砂も同じ理由で西日本の方が多くカリウムを含んでいるのでしょう。今回の測定もそのことを反映していると考えられます。

 電子機器の使用条件が緩和されて以来ずっと考えていた,機内での放射線測定を行うことができました。これで離陸から着陸まで切れ目のないデータをとることができました。帰りのフライトでも測定しようと思っていたのですが,残念ながら帰りのフライトは満席。たくさんの人がいるなかではかるくんを見ながらながらメモをすると勇気がありませんでした。それはまた次の機会にと思います。


* 「はかるくん」はヨウ化セシウム(CsI)を使ったシンチレーションカウンターです。ガンマ線を測ることができます。マイクロシーベルト毎時(μSv/h)という単位で測定値を表示しますが,この値はガンマ線に対して校正されています。高度0の場所では,宇宙線中のガンマ線は少ないため,「はかるくん」の値は壁や床からのガンマ線の量を反映しています。
 宇宙線の組成は高度によって変わります。地上ではほとんど,ミュー粒子や電子ですが,高度1万メートルでは中性子や陽子が多くなります。「はかるくん」は宇宙線中のガンマ線を測っていると考えられますが,放射線量は中性子や陽子などの寄与の方が大きくなります。測定値から宇宙線が増えていることは分かりますが,線量を正しく表示することはできません。誤解を招かないように,グラフの縦軸は任意単位と書きました。それでも定性的に放射線量の変化を観測することができます。

参考までに,宇宙天気情報センターによる2016年8月28日の太陽黒点数とFlightAwareの高度データ(巡航高度39,000フィートと仮定)をEXPACSという航空機放射線量計算ソフトに入力して,このフライト中の宇宙線からの実効線量を計算すると,1.16μSvでした。