今日(2023年8月17日)も新幹線はダイヤが乱れているけど、昨日(2023年8月16日)帰省の記録。長い駄文です。。。
タイマー3分
素粒子物理を研究しています。ツイッター(@tohru_takahs)では日常のもろもろをつぶやいています。Facebookページは http://www.facebook.com/tohru.takahs 以前のブログがノートになっています。 ホームページ: https://tohru.huhep.org/ ブログのタイトルは,最近スマートスピーカによく言ってる言葉です。「OK Google タイマー3分」
2023年8月17日木曜日
2023年8月16日新幹線大混乱体験記
2023年8月15日火曜日
核なき世界についてChatGPTに聞いてみた
今日は2023年8月15日終戦の日。授業の関係もあって毎年この時期になると戦争や平和,核兵器について考える。
今年の8月6日の広島平和近年式典では広島市長が核抑止論は破綻していると語った。核抑止論について意見はいろいろあるが、現在社会に核兵器があるのは事実だ。第2次世界大戦後の社会の形成に核兵器が影響したのも事実だろう。現在の世界に核兵器があることを踏まえて,それが無い世界とはどのようなものか考える必要があると思う。その考察は多義に渡るが,昨年末から世間を騒がしている生成AIに入力したらどのような回答が返ってくるだろう。これは昨年まではできなかったことだ。やってみよう。
以下オレンジは私がChatGPTに入力したプロンプト,黒がChatGPTの回答。なおChatGPTはGPT-4を使っている。
あなたは安全保障の専門家です。軍事技術と国際関係のエキスパートです。
はい、私は幅広いトピックに関する知識を持っており、安全保障、軍事技術、国際関係に関する質問に答えることができます。どのようにお手伝いできますか?
核兵器を廃絶した場合、核抑止がなくなります。核なき世界はどの様な世界か、軍事、国際関係の観点から述べて下さい。
核兵器を廃絶するという考えは、理論的には理想的に見えるかもしれませんが、実際には多くの複雑な問題や課題を持っています。核兵器の廃絶がもたらすであろう影響について、軍事・国際関係の観点から考察します。
軍事的なバランスの変動: 現代の大国間の戦略的バランスは、核抑止に基づいています。核兵器の廃絶はこのバランスを崩し、従来の軍事力が再び重要になる可能性があります。
再軍備競争: 一部の国家は、核抑止力がなくなったことで他国に対する脅威を感じるかもしれません。その結果、非核兵器による再軍備競争が起こる可能性があります。
局地的な紛争の増加: 核抑止のおかげで、大国間の全面戦争は抑止されてきました。核抑止がなくなれば、局地的な紛争や大国間の直接的な衝突が増加するリスクがあるかもしれません。
安全保障の保証: 核兵器廃絶後、国際的な安全保障のメカニズムが新たに必要となるでしょう。これには多国間の合意や新たな国際的な取り決めが求められる可能性があります。
不正確な核廃絶: 完全な核兵器の廃絶を確認するのは困難です。一部の国が秘密裏に核兵器を保持している可能性が常に考えられるため、信頼性の高い検証機構が必要です。
非国家主体の脅威: 核廃絶の過程で、核材料や技術が不正確なルートで流出するリスクが考えられます。非国家主体やテロ組織がこれらを入手することは大きな脅威となるでしょう。
総じて、核なき世界は一見平和的に見えるかもしれませんが、それには多くの課題や新たな脅威が伴います。そのため、核兵器の廃絶を目指す際は、これらの問題を真剣に考慮する必要があります。
上述の観点を踏まえて、今より紛争が増えない、紛争による犠牲者が今より増えない核なき世界はどの様な世界と考えられますか。
紛争が増えない、かつ紛争による犠牲者が増えない核なき世界を実現するためには、以下の要素が考えられる世界像が必要です。
強固な国際協力体制: 国家間の信頼を基盤とした、効果的で強固な多国間の協力体制が存在すること。これには、国際的な安全保障の機構や紛争解決の仕組みの強化が必要です。
透明性と説明責任: 国家の軍事活動や兵器の開発に関して、透明性を持ち、国際的な監視や検証機構に従事する姿勢が必要です。
教育と文化交流: 紛争の原因となる誤解や偏見を減少させるために、教育や文化交流が積極的に行われ、国際的な相互理解が深まる環境が形成されていること。
経済的繁栄と公平性: 資源や経済的利益を巡る競争や対立が減少するため、公平な貿易体制や資源の共有、経済的な協力が行われていること。
技術の発展: 高度な監視技術や防御技術が普及しており、潜在的な脅威を事前に検知・回避する能力が向上していること。
非暴力の原則: 紛争解決の手段として、非暴力の原則が広く受け入れられ、実践されていること。
地域的な安定性: 地域的な安定を保持するための協力機構や同盟関係が強固で、地域的な対立や緊張を未然に防ぐ取り決めや仕組みが整っていること。
このような条件が満たされた状態で、核兵器が廃絶されることで、紛争が増えず、紛争による犠牲者が増えない核なき世界が実現すると考えられます。ただし、これらの条件を整えるためには、国際的な取り組みや長期的な努力が必要です。
紛争を増やさない為の、核に変わる抑止力の可能性の観点から述べて下さい。
2023年5月9日火曜日
新型コロナから3年。教員の視点,親の視点
2023年5月8日,新型コロナウイルスが第5類となりました。インフルエンザなど同じ扱いになったのです。
新型コロナウイルスの流行の始まりから約3年が過ぎました。この機会に当時,2020年春のことを書いておこうと思います。
新型コロナウイルスのことが気になり始めたのは2020年明けてすぐのことでした 1月は ニュースを聞きながらもまだそれほど大きな影響を及ぼすとは思えず,まさか4月以降の生活が一変するとは思ってもいませんでした。
でも2月になるとなんとなく様子が決まって違ってきました。当時のFacebookを「ぞくぞくと研究会中止の連絡が入ってくる」と投稿しています。もしかしたら4月から大学の授業が大きく変わるかもしれないと考え始めたのもこのころです。
しかしそのころは,新年度のことを検討しておかなければならないと思いながらも一方で「影響があるにしても4月になると大学には新入生が入学し研究室には新しい4年生が来て,ほぼ通常通りの活動ができるのではないか」そんなことを考えてみました。」
一方私生活ではちょうど 娘が大学入学の年でした。 3月の初めに幸運なことに合格通知を受け,新しい生活の準備をしていました。 2020年の3月の初めの頃のことです。近くの家具屋さん電気屋さんに行って新しい家具や電気製品の購入,その配送の手配をしていました。 その頃はすでに4月から本当に新しい場所での生活ができるかどうか疑問も浮かんでいたのですが,手配はしておかなければいけない。 まあ結局引っ越しはすることになるのだろう,,そう考えていたのも事実です。
大学の話に戻ります 2月の下旬になってくるとFacebookの投稿にもコロナのことが突然増えています。出席を予定していた5月のフランスでの研究会からも中止の連絡が来ました。4月からは学生が通学しての授業ができなくなる可能性も考え始めました。
もしそうなった時にどうなるのか それについて検討を始めなければいけない頃ではないか?周りの人と そろそろ 検討しなければいけないねということをやり取りしていました。
大学の教育情報化推進会議の方に検討の提案をしてみたりもしました。しかし私から見ると十分な検討が始まっていると思えず。いらいらしながら大学の状況を見ていました。数年前まではeラーニング推進会議という大学の中ICTの活用を考える会議の議長をしていたので,もしその会議が続いたら何かそこで提案できたのに,,,なんて考えていました。
2020年3月12日のFacebook投稿です,
「4月からの授業形式がまだ決まっていない。特に自宅外の新入生は引っ越してきたが良いが,授業は無い,あってもオンラインのみ,サークルもないでは,精神的に持たない。対面で授業ができない時は,自宅などこれまでの環境を維持するように通達しないと,大変なことになるのではないか」
「一昨年の水害の対応。H大学はかなり素早くて評価していたのだが,,,」
かなりいらいらしていますね。。
そうこうするうちに3月中旬になってようやく新型コロナウイルスの中での授業を検討する学内のタスクフォースが立ち上がりわたくしもそのメンバーとして終わることになりました。
当初大学はリモート出身の授業するにしても1週間くらい遅れて授業医を始められるそのようなことを考えていたようです。しかし実際のところはそんな簡単ではありません。遠隔授業を行うには学生に学生の下宿アパートまた自宅インターネットの充分な環境が整っているかそのようなことも考えなければいけません。
それよりも何よりも教員がそのやり方を知らないのです。もちろん遠隔会議システムだけではできません。いわゆるLearning Management System (LMS)という,教材を置いて受講生と共有したり,小テストのようなことを行ったり,成績を集計したりするシステムを使わないと遠隔だけの授業はできません。率直なところそのシステムを使ったことがある教員非常に少数だったのです。
広島大学ではBb9というLMSを使っていたのですが,その使いかたを教員に学んでもらわなければなりません。4月に入ってようなく理学部の教員向けの講習会が開催されました。 でも,その時に来てくれた講師の人は,いきなり「こういう機能ある」とか,「練習問題こういうふうにつくる」とか,そのようなことを話し始めました 。ところがそれを聞いてる教員はチンプンカンプンです。そもそもLMSが何なのか全く知らない。ログインしたらどんな画面が出てくるのか?その出てくる画面の意味はそもそも何なのか?そんなことをまったく知らないのですから,中身の説明なんて理解できるはずがありません。 その会合が終わった後,慌てて物理学科の教員の方々にもう一度集まっていただいて,Bb9基本の基から説明をしたのを覚えています。
本学ではマイクロソフトのteamsと言うアプリを使っています。これはウェブ会議をしたり,授業の情報交換のための投稿をしたり,ファイルを置いたりと,さまざまな機能を持ったシステムです。それまではほとんど使われていなかったものなのですが,みなが使えるようにならなければいけない状況に追い込まれたわけです。そこで理学部で遠隔授業やコロナ対応の情報交換をするための理学部の教員向けチームをつくってそこで情報交換をすることにしました。Bb9の使い方,チームの作り方,録画のLMSのアップロード仕方などなど,いろいろな情報交換をして少しでも教員の授業の役に立つそういうことをやってみました。
一方で2月,3月ころ,日本語を解さない外国から来た教員の皆さんへの情報が全く不足していることを伝え聞きました。3月のFacebook投稿に「ここはSGUではなかったのか」というのがありました(^^。コロナの影響で授業がどのようになるのか,どうすればいいのか,そのような情報がほとんど外国人教員の方には伝わっていないということがわかりました。そこで外国人教員の皆さんを対象にした情報交換のチームを立ち上げて,大学から日本語で出ているいろいろなアナウンスメントの説明をしたり,遠隔授業の情報を伝えたりしました。少しは皆さんの役に立てたのではないかと思っています。大学からの情報が英語で提供されるようになり、情報提供という役目はほぼ終了しましたが、そのチームは現在でも情報交換を行っていいます。
新入生を迎えるのも大変でした。新入生がネット環境で授業を受けるためには大学のアカウントを取得して,そこにアクセスできるようにしなければなりません。本学では必携パソコンといって,学生全員が自分のパソコンを持つことになっているのですが,そのパソコンをまず入手しセットアップしてネットから学内のリソースにアクセスできるようできるようにしなければなりません。それをどうするのか大きな課題でした
。幸運なことにたった一日ですが,4月に入って新入生向けのガイダンスを対面で行うことができました。その一日を使って新入生の皆さんにこれからの授業のこと,遠隔授業のこと,などの説明をおこないました。いまでもそのときのことをよく覚えています。
私自身も大学の新入生の保護者でした。新入生の抱く不安,その保護者が持っている不安,とてもよくわかりました。新入生ガイダンスで「皆さんが最も安心して安全で完全に授業を受けられる場所から授業を受けてください」そう強く言ったのを覚えています
個人的は,遠隔授業やBb9を使った授業をずいぶん前から行っていたので,実は遠隔授業の実施にそれほどの負担はなかったのです。率直に言うとやり方はよく知っていました。でも大半の教員はそうではありません。「授業を録画してそれをBb9にアップロードして見ることができるようにせよ」そう言われても大変なのです。皆さん大変苦労したと思います・なんとか乗り切らなければいけない。その思いで授業を始めたのはもう5月連休が過ぎていたでしょうか。
筆者の居室からの遠隔授業のセット |
個人的な面をお話しましょう。娘が大学一年生になりました。でも対面授業は全くありません。アパートを借りたものの引っ越しは延期。家財道具一式は電気屋さんや家具屋さんの倉庫に一時取り置きになってしまいました。娘は大学から遠隔授業の受け方や大学のアカウントの取得方法,ログインの仕方などを大学からの情報で習得する必要がありました。入学してから半年間,一度も大学に行きませんでした。アパートを決めるときに大学の近くまで行ったのですが,その時にはもうキャンパスは立ち入り禁止。大学に行ったのは入学試験の時だけという状況でした。
入学後半年間,自宅から遠隔授業を受け続けるということになりました。おかげで私も少しだけ他大学の遠隔授業の様子を見ることができました。
想像していたことですが,遠隔授業のやり方は教員によって大きく違います。慣れている人,慣れていなくてもこういうものに強い人,一方でIT系には全く弱い人,いろいろな教員がいます。他人事ではありません。本学も似たり寄ったりのはずです。提供する授業の質の担保ということ考え続けることになりました。結局娘は,入学後半年経ってから大学近くのアパートに引越しました。半年間家賃だけを払い続けていたのです。でも授業の大半は遠隔授業,実験などどうしても対面で必要なときだけ,たぶん週に一日通学する程度。そのようなことが続いていたようです。サークル活動もほとんどできません。なんとかリモートでサークルに参加しミーティングだけ行われていたようです。でもサークルやクラブ活動というのは対面でみんなが集まってやることが基本。それが楽しいわけです。それができない学生は全国(いや全世界)にいる。授業だけでなく,影響は非常に大きいことを実感していました。
教員としてはできることはやっている。そのために大きな努力を払ってそのことは知っていました。一方で保護者としては,「それ以前の授業とは違う」「大学生活ができることが全く違っている」というのが率直な思いでした。保護者の立場から言えば授業料を返してほしいと言いたくなるような気持ちが無かったとは言えません。
その後,今に至るまでいろんなことがありました。2023年の5月,ほぼ通常の社会生活となって大学もほぼ通常の授業の体制に戻りました。2020年の4月に入学した新入生はもう4年生になっています。最終年度です。この3年間かどういう学生生活だったのかとても気になります。最後の学年,大学生として充実した活動をして,少しでも有意義な大学生生活だったと感じて卒業してもらいたいと思っています。
2023年4月29日土曜日
AI技術の進化 - GPT-4による驚きの可能性と懸念
この記事はChatGPT(GPT-4)に以下のプロンプトを入力して出てきた結果です。そのまま掲載します。
****ここがChatGPTに入力した文章***
2022年12月13日火曜日
ベルの不等式と量子もつれ
1935年にアインシュタイン,ポドルスキー,ローゼンは後にEPRパラドックスと呼ばれる課題を提起し,量子力学の不完全性を主張した。
もとの論文は運動量と位置の測定に関する議論だが,今ではそれと等価な物理系としてスピン(または光子の偏極)を用いた議論が一般的である。
(実は等価ではない。位置と運動量の交換関係は$\left[ \hat{x},{{{\hat{p}}}_{x}} \right]=i\hbar $で定数,スピンは
$\left[ {{{\hat{s}}}_{x}},{{{\hat{s}}}_{y}} \right]=i\hbar {{\hat{s}}_{z}}$
なので不確定債関係が異なる。これは後で述べる不確定性関係の議論に大きく影響する。)
スピン1/2の同種粒子2つが合成スピン0の状態
$\left| \varphi \right\rangle$
にあったとする。この状態がスピン1/2の粒子崩壊したとき2つの粒子の状態は
$$\left| \varphi \right\rangle =\frac{1}{\sqrt{2}}\left( {{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}-{{\left| -1 \right\rangle }_{1}}{{\left| 1 \right\rangle }_{2}} \right)$$
となる。
${{\left| \pm 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| \mp 1 \right\rangle }_{2}}$
は1番目,2番目の粒子のスピン上向き,下向きの状態を表す。以後1番目,2番目を表す符号は省略する。この状態で1番目のスピンを測定して上向き(下向き)の場合,
2番目の粒子は必ず下向き(上向き)となり,一方の粒子のスピンの方向を測定すると他方のスピンの方向を知ることができる。このような状態を量子もつれ状態(entangled state)と言う。
今量子化軸を$z$軸にとったとする。 1番目の粒子のスピンに関する測定は2番目の粒子に何の影響も及ぼしていない。それにも関わらす2番目のスピンが確定している。 アインシュタインはこれは2番目のスピンは観測にかかわらず確定している,すなわち実在していると主張した。 さらに1番目の粒子の測定が2番目の粒子に直ぐ(光速を超えて情報が伝わって直ち)には影響しない局所性を仮定する。 光速を超えて情報が伝わると因果律を破るので局所性は物理の基本的要請である。このように局所性をもった実在論を局所実在論という。 ところで$\left| \varphi \right\rangle$ はスピン0の状態だったので回転対称であり,同じことを90°ずれた$x$軸方向議論しても同じことになるはずである。 つまり$x$軸方向においても2番目の粒子のスピンは1番目の粒子の測定に影響されず確定している。すなわち実在している。 すると, 2番目の粒子では$z$軸方向と$x$軸方向のスピンが同時に確定していることになり,これは不確定性原理に反する。よって量子力学は不完全な議論である。 これがEPRパラドックスと呼ばれるものである。この問題提起は量子力学に対して大きな課題をつきつけ,それが解決したといえるのは1980年代になってからである。 2022年のノーベル物理学賞はこれに寄与した研究に対して授与された。
スピン相関
まず問題の設定を行う。量子科学では2つ(2カ所)での観測者をアリス($A$ ),ボブ($B$)という名称を用いる習慣がある。
アリスはスピンを任意の方向角$\theta$で測定する。$\theta=0$は$z$軸方向$\theta=\pi /2$は$x$軸方向と考えるとよい。
これを$A(\theta)$と表そう。ボブ側も同様に角度$\phi$の測定を$B(\phi)$と表す。
量子力学では測定は演算子で表される。
これを表すときは$\hat A(\theta)$, $\hat B(\phi)$ とかく。
状態$\left| \varphi \right\rangle$に対して,アリス,ボブの測定はそれぞれ
\begin{align}
& \hat{A}(\theta )\left| \varphi \right\rangle \nonumber \\
& \hat{B}(\varphi )\left| \varphi \right\rangle \nonumber \\
\end{align}
ボブとアリスの連続測定は
$$\hat{A}(\theta )\hat{B}(\varphi )\left| \varphi \right\rangle $$
である。
古典的な角度相関
量子論では,物理量は確率的にしか分からない。
それに対する古典論(実在論)の記述を考える。実在論では,物理量は定まっているのだから,それが測定毎にばらつく現象は確率的な変動と考える。
観測者の知らない変数$\lambda$(隠れた変数:hidden variable)
が存在し観測量はそれに依存すると考える。
このときアリスの測定量は角度$\theta$と変数$\lambda$に依存して$a(\theta,\phi)$ と書くことができるだろう。
スピンの上向き,下向きに対応して, $-1\le a(\theta ,\lambda )\le 1$である
($a(\theta ,\lambda )=\pm 1$をより一般化した状況を考えている)。
このとき$\lambda$に依存する確率密度関数を$P(\lambda$)とすると,アリス側で観測されるスピンの平均は
$$\left\langle A(\theta ) \right\rangle =\int{P(\lambda )a(\theta ,\lambda )d\lambda }$$
同様に,ボブ側,連続測定の平均値は
\begin{align}
& \left\langle B(\phi ) \right\rangle =\int{P(\lambda )b(\phi ,\lambda )d\lambda } \nonumber \\
& \left\langle A(\theta )B(\phi ) \right\rangle =\int{P(\lambda )a(\theta ,\lambda )b(\phi ,\lambda )d\lambda } \nonumber
\end{align}
である。
局所実在論を仮定すると一般的にこのように表現することができる。
ベルの不等式
連続測定(または相関という)$\left\langle A(\theta )B(\phi ) \right\rangle =\int{P(\lambda )a(\theta ,\lambda )b(\phi ,\lambda )d\lambda }$
を考えると$\theta, \phi$という二つの角度あるので,その組み合わせとして4通り,
$\left\langle A(\theta )B(\phi ) \right\rangle ,\ \left\langle A({\theta }')B(\phi ) \right\rangle ,\ \left\langle A(\theta )B({\phi }') \right\rangle ,\ \left\langle A({\theta }')B({\phi }') \right\rangle$
が考えられる。この組み合わせをつかって
$$C=\left\langle A(\theta )B(\phi ) \right\rangle +\ \left\langle A({\theta }')B(\phi ) \right\rangle -\left\langle A(\theta )B({\phi }') \right\rangle +\left\langle A({\theta }')B({\phi }') \right\rangle $$
を定義する。証明は省略するが(たとえば,清水明,新版粒子論の基礎8章)$-2\le C\le 2$を示すことができる。これがベルの不等式の一つCHSH不等式である。
ベルの不等式の量子論による考察
演算子のスペクトル分解
ベルの不等式を量子論によって考察するが,その前に演算子について準備する。
$\hat A$ をエルミート演算子し,その固有ベクトルを$\left| a \right\rangle $とすると
$\hat{A}=\sum\limits_{a}{\left| a \right\rangle \left\langle a \right|\hat{A}\left| a \right\rangle \left\langle a \right|}=\sum\limits_{a}{\left\langle a \right|\hat{A}\left| a \right\rangle \left| a \right\rangle \left\langle a \right|}=a\left| a \right\rangle \left\langle a \right|$
($\because \sum\limits_{a}{\left| a \right\rangle \left\langle a \right|}=1$)
と表すことができる。これを演算子のスペクトル分解という。
スピン測定演算子の具体的表現
アリスがスピンを$\theta$ 方向で測る演算子$\hat A(\theta)$ のスペクトル分解を求めるため,まずアリスの任意の状態を考察する。
$\theta =0$のときは,$\left| 1,b \right\rangle =\left| 1 \right\rangle \left| b \right\rangle$
($b=\pm 1$:ボブ側のスピンの方向)または,$\left| -1,b \right\rangle =\left| -1 \right\rangle \left| b \right\rangle$ である。
これを$y$軸のまわりに$\theta$回転する。
\begin{align}
& {{e}^{\frac{i}{\hbar }\theta {{{\hat{J}}}_{y}}}}=I+\frac{i}{\hbar }\theta {{{\hat{J}}}_{y}}+\frac{1}{2}{{\left( \frac{i}{\hbar }\theta {{{\hat{J}}}_{y}} \right)}^{2}}+,,,+\frac{1}{n!}{{\left( \frac{i}{\hbar }\theta {{{\hat{J}}}_{y}} \right)}^{n}}+,,, \nonumber \\
& =\left( \cos \frac{\theta }{2}I+i\sin \frac{\theta }{2}\left( \begin{matrix}
0 & -i \\
i & 0 \\
\end{matrix} \right) \right)=\left( \begin{matrix}
\cos \frac{\theta }{2} & \sin \frac{\theta }{2} \\
-\sin \frac{\theta }{2} & \cos \frac{\theta }{2} \\
\end{matrix} \right) \nonumber
\end{align}
を使って,
\begin{align}
& \left( \begin{matrix}
\left| +\theta ,b \right\rangle \\
\left| -\theta ,b \right\rangle \\
\end{matrix} \right)={{e}^{\frac{i}{\hbar }\theta {{{\hat{J}}}_{y}}}}\left( \begin{matrix}
\left| +1,b \right\rangle \\
\left| -1,b \right\rangle \\
\end{matrix} \right)=\left( \cos \frac{\theta }{2}I+i\sin \frac{\theta }{2}\left( \begin{matrix}
0 & -i \\
i & 0 \\
\end{matrix} \right) \right)\left( \begin{matrix}
\left| +1,b \right\rangle \\
\left| -1,b \right\rangle \\
\end{matrix} \right) \nonumber \\
& =\left( \begin{matrix}
\cos \frac{\theta }{2} & \sin \frac{\theta }{2} \\
-\sin \frac{\theta }{2} & \cos \frac{\theta }{2} \\
\end{matrix} \right)\left( \begin{matrix}
\left| +1,b \right\rangle \\
\left| -1,b \right\rangle \\
\end{matrix} \right) \nonumber
\end{align}
よって,
\begin{align}
& \left| +\theta ,b \right\rangle =\cos \frac{\theta }{2}\left| +1,b \right\rangle +\sin \frac{\theta }{2}\left| -1,b \right\rangle \nonumber \\
& \left| -\theta ,b \right\rangle =-\sin \frac{\theta }{2}\left| +1,b \right\rangle +\cos \frac{\theta }{2}\left| -1,b \right\rangle \nonumber \\
\end{align}
アリスがスピンを$\theta$方向で測る演算子$\hat A(\theta)$ はこれを使って
\begin{align}
& \hat{A}(\theta )=\sum\limits_{b}{\left( \left| +\theta ,b \right\rangle \left\langle +\theta ,b \right|-\left| -\theta ,b \right\rangle \left\langle -\theta ,b \right| \right)} \nonumber \\
& =\cos \theta \sum\limits_{b}{\left( \left| 1,b \right\rangle \left\langle 1,b \right|-\left| -1,b \right\rangle \left\langle -1,b \right| \right)}+\sin \theta \sum\limits_{b}{\left( \left| 1,b \right\rangle \left\langle -1,b \right|+\left| -1,b \right\rangle \left\langle 1,b \right| \right)}
\end{align}
と表すことができる。
行列で表すと$\left| \varphi \right\rangle$ の基底は
$\left( \begin{matrix}
\left| 1,1 \right\rangle \\
\ \,\left| 1,-1 \right\rangle \\
\,\ \left| -1,1 \right\rangle \\
\left| -1,-1 \right\rangle \\
\end{matrix} \right)$
と書くことができる。
この表示で演算子は
$$\left( \begin{matrix}
\left| 1,1 \right\rangle \left\langle 1,1 \right| & \left| 1,1 \right\rangle \left\langle 1,-1 \right| & \left| 1,1 \right\rangle \left\langle -1,1 \right| & \left| 1,1 \right\rangle \left\langle -1,-1 \right| \\
\left| 1,-1 \right\rangle \left\langle 1,1 \right| & \left| 1,-1 \right\rangle \left\langle 1,-1 \right| & \left| 1,-1 \right\rangle \left\langle -1,1 \right| & \left| 1,-1 \right\rangle \left\langle -1,-1 \right| \\
\left| -1,1 \right\rangle \left\langle 1,1 \right| & \left| -1,1 \right\rangle \left\langle 1,-1 \right| & \left| -1,1 \right\rangle \left\langle -1,1 \right| & \left| -1,1 \right\rangle \left\langle -1,-1 \right| \\
\left| -1,-1 \right\rangle \left\langle 1,1 \right| & \left| -1,-1 \right\rangle \left\langle 1,-1 \right| & \left| -1,-1 \right\rangle \left\langle -1,1 \right| & \left| -1,-1 \right\rangle \left\langle -1,-1 \right| \\
\end{matrix} \right)$$
なので,
$$\hat{A}(\theta )=\left( \begin{matrix}
\cos \theta & 0 & \sin \theta & 0 \\
0 & \cos \theta & 0 & \sin \theta \\
\sin \theta & 0 & -\cos \theta & 0 \\
0 & \sin \theta & 0 & -\cos \theta \\
\end{matrix} \right)$$
である。実際の計算はこれを使う方が便利である。
同様にボブがスピンを$\phi$ 方向で測る演算子$\hat B(\phi)$ は \begin{align} & \left| a,+\phi \right\rangle =\cos \frac{\phi }{2}\left| a,+1 \right\rangle +\sin \frac{\phi }{2}\left| a,-1 \right\rangle \nonumber \\ & \left| a,-\phi \right\rangle =-\sin \frac{\phi }{2}\left| a,+1 \right\rangle +\cos \frac{\phi }{2}\left| a,+1 \right\rangle \nonumber \\ \end{align} \begin{align} & \hat{B}(\phi )=\sum\limits_{a}{\left( \left| a,+\phi \right\rangle \left\langle a,+\phi \right|-\left| a,-\phi \right\rangle \left\langle a,-\phi \right| \right)} \nonumber \\ & =\cos \phi \sum\limits_{a}{\left( \left| a,1 \right\rangle \left\langle a,1 \right|-\left| a,-1 \right\rangle \left\langle a,-1 \right| \right)}+\sin \phi \sum\limits_{a}{\left( \left| a,1 \right\rangle \left\langle a,-1 \right|+\left| a,-1 \right\rangle \left\langle a,1 \right| \right)} \nonumber \end{align} $$\hat{B}(\phi )=\left( \begin{matrix} \cos \phi & \sin \phi & 0 & 0 \\ \sin \phi & -\cos \phi & 0 & 0 \\ 0 & 0 & \cos \phi & \sin \phi \\ 0 & 0 & \sin \phi & -\cos \phi \\ \end{matrix} \right)$$ となる。
ベルの不等式の量子論による計算
ボブが$\phi$方向,アリスが$\theta$方向を測る演算子を$\hat C(\theta,\phi)$とすると
\[\begin{align}
& \hat{C}(\theta ,\phi )=\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi ) \nonumber \\
& =\left( \begin{matrix}
\cos \theta & 0 & \sin \theta & 0 \\
0 & \cos \theta & 0 & \sin \theta \\
\sin \theta & 0 & -\cos \theta & 0 \\
0 & \sin \theta & 0 & -\cos \theta \\
\end{matrix} \right)\left( \begin{matrix}
\cos \phi & \sin \phi & 0 & 0 \\
\sin \phi & -\cos \phi & 0 & 0 \\
0 & 0 & \cos \phi & \sin \phi \\
0 & 0 & \sin \phi & -\cos \phi \\
\end{matrix} \right) \nonumber \\
& =\left( \begin{matrix}
\cos \theta \cos \phi & \cos \theta \sin \phi & \cos \phi \sin \theta & \sin \theta \sin \phi \\
\cos \theta \sin \phi & -\cos \theta \cos \phi & \sin \theta \sin \phi & -\cos \phi \sin \theta \\
\cos \phi \sin \theta & \sin \theta \sin \phi & -\cos \theta \cos \phi & -\cos \phi \sin \phi \\
\sin \theta \sin \phi & -\cos \phi \sin \theta & -\cos \phi \sin \phi & \cos \theta \cos \phi \\
\end{matrix} \right) \nonumber
\end{align}\]
である。これを状態$\left| \varphi \right\rangle =\frac{1}{\sqrt{2}}\left( \left| 1,-1 \right\rangle -\left| -1,1 \right\rangle \right)$に作用させる。
\begin{align}
& \hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )\left| \varphi \right\rangle =\left( \begin{matrix}
\cos \theta \cos \phi & \cos \theta \sin \phi & \cos \phi \sin \theta & \sin \theta \sin \phi \\
\cos \theta \sin \phi & -\cos \theta \cos \phi & \sin \theta \sin \phi & -\cos \phi \sin \theta \\
\cos \phi \sin \theta & \sin \theta \sin \phi & -\cos \theta \cos \phi & -\cos \phi \sin \phi \\
\sin \theta \sin \phi & -\cos \phi \sin \theta & -\cos \phi \sin \phi & \cos \theta \cos \phi \\
\end{matrix} \right)\frac{1}{\sqrt{2}}\left( \begin{matrix}
0 \\
1 \\
-1 \\
0 \\
\end{matrix} \right) \nonumber \\
& =\frac{1}{\sqrt{2}}\left( \begin{matrix}
-\sin (\theta -\phi ) \\
-\cos (\theta -\phi ) \\
\cos (\theta -\phi ) \\
-\sin (\theta -\phi ) \\
\end{matrix} \right) \nonumber
\end{align}
となる。$\theta - \phi = 0$つまり月と地球で同じ方向の測定を行う場合$\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )\left| \varphi \right\rangle =-\left| \varphi \right\rangle $
である。このとき$\left| \varphi \right\rangle $は$\left| \varphi \right\rangle $
の固有関数であり固有値は$-1$ 。これはボブがスピンを測定すればアリス側では必ず反対方向のスピンが観測されることを意味する。
一般の場合のボブ,アリスのスピン連続測定(相関)の平均値は
\begin{align}
& \left\langle \varphi \right|\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )\left| \varphi \right\rangle =\frac{1}{\sqrt{2}}\left( 0,1,-1,0 \right)\frac{1}{\sqrt{2}}\left( \begin{matrix}
-\sin (\theta -\phi ) \\
-\cos (\theta -\phi ) \\
\cos (\theta -\phi ) \\
-\sin (\theta -\phi ) \\
\end{matrix} \right) \nonumber \\
& =-\cos \theta \cos \phi -\sin \theta \sin \phi =-\cos (\theta -\phi ) \nonumber
\end{align}
結果はアリスとボブの角度差だけに依存している。このことはスピン0の状態の回転対称性を反映している。
$\left\langle \varphi \right|\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )\left| \varphi \right\rangle =-\cos (\theta -\phi )$
を用いてベルの不等式を表すと
\begin{align}
& {{C}_{Quantum}}=\left\langle A(\theta )B(\phi ) \right\rangle +\left\langle A({\theta }')B(\phi ) \right\rangle -\left\langle A(\theta )B({\phi }') \right\rangle +\left\langle A({\theta }')B({\phi }') \right\rangle \\
& =\left\langle \varphi \right|\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )\left| \varphi \right\rangle +\left\langle \varphi \right|\hat{A}({\theta }')\hat{B}(\phi )\left| \varphi \right\rangle -\left\langle \varphi \right|\hat{A}(\theta )\hat{B}({\phi }')\left| \varphi \right\rangle +\left\langle \varphi \right|\hat{A}({\theta }')\hat{B}({\phi }')\left| \varphi \right\rangle \\
& =-\cos (\theta -\phi )-\cos ({\theta }'-\phi )+\cos (\theta -{\phi }')-\cos ({\theta }'-{\phi }')
\end{align}
たとえば$\theta =\frac{3\pi }{4},\ \phi =\frac{\pi }{2},\ {\theta }'=\frac{\pi }{4},\ {\varphi }'=0$のとき,${{C}_{Quantum}}=-2\sqrt{2}$
であり,古典論(隠れた変数の理論)の帰結である$-2\le C\le 2$を破っている。
古典論との違いは$\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )$の非対項($\sin \theta ,\ \sin \phi$ の項)すなわち干渉項の有無である。
干渉項を除いた場合のベルの不等式に対応するものは
${{C}_{Classical}}=-\cos \theta \cos \phi -\cos {\theta }'\cos \phi +\cos \theta \cos {\phi }'-\cos {\theta }'\cos {\phi }'$
これは$\left| {{C}_{Classical}}\le 2 \right|$となりベルの不等式を破らない。
干渉項は$\left| \varphi \right\rangle =\frac{1}{\sqrt{2}}\left( \left| 1,-1 \right\rangle -\left| -1,1 \right\rangle \right)$ の第1項と第2項の間の遷移である。パウリ行列の$x$成分は ${{\sigma }_{x}}=\left( \begin{matrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \\ \end{matrix} \right)$ なので$x$軸方向のスピンの測定演算子 ${{\hat{s}}_{x}}=\frac{1}{2}\hbar {{\sigma }_{x}}$ はスピンの$z$成分を入れ替える。これが干渉項が生じる由来であり古典的取り扱いでは出てこない。
不確定性関係の考察
連続測定$\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )$の不確定性関係に関するロバートソンの不等式は,
$$d{{\left( A(\theta )B(\phi ) \right)}^{2}}d{{\left( A({\theta }')B({\phi }') \right)}^{2}}\ge \frac{{{\left| \left\langle \varphi \right|\left[ \hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi ),\hat{A}({\theta }')\hat{B}({\phi }') \right]\left| \varphi \right\rangle \right|}^{2}}}{4}$$
である。右辺の交換関係を計算すると
$\left[ \hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi ),\hat{A}({\theta }')\hat{B}({\phi }') \right] \ne 0 $だが,
$\left| \varphi \right\rangle =\frac{1}{\sqrt{2}}\left( \left| 1,-1 \right\rangle -\left| -1,1 \right\rangle \right)$
について,
$\left\langle \varphi \right|\left[ \hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi ),\hat{A}({\theta }')\hat{B}({\phi }') \right]\left| \varphi \right\rangle =0$
を示すことができる。
したがって$d{{\left( A(\theta )B(\phi ) \right)}^{2}}=0$
$d{{\left( A({\theta }')B({\phi }') \right)}^{2}}=0$
を同時に満たしても量子論には反しないことが分かる。
すなわち異なる角度の組み合わせ(たとえば$z$軸方向$\left( \theta ,\phi \right)=(0,0)$と$x$軸方向
$\left( {\theta }',{\phi }' \right)=(\pi /2,\pi /2)$ )
で同時にアインシュタインの言う実在性があっても不確定性原理には反していない。
これは不確定性関係との無矛盾性から量子論と実在論の比較はできないことも意味している。
(このことが位置と運動量の場合と異なる,位置と運動量の交換関係は定数なので位置と運動量の連続測定の交換関係の状態による平均は$0$とならない。)
$d{{\left( A(\theta )B(\phi ) \right)}^{2}}$の具体的な形を求める。
\begin{align}
& d{{\left( A(\theta )B(\phi ) \right)}^{2}}=\left\langle \varphi \right|{{\left( \hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )-\left\langle \varphi \right|\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )\left| \varphi \right\rangle \right)}^{2}}\left| \varphi \right\rangle \nonumber \\
& =\left\langle \varphi \right|{{\left( \hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi ) \right)}^{2}}\left| \varphi \right\rangle -{{\left| \left\langle \varphi \right|\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )\left| \varphi \right\rangle \right|}^{2}} \nonumber
\end{align}
(分散=2乗平均―平均の2乗)
${{\left( \hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi ) \right)}^{2}}=\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )\hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi )=I$
となるので,第1項は$\left\langle \varphi \right|{{\left( \hat{A}(\theta )\hat{B}(\phi ) \right)}^{2}}\left| \varphi \right\rangle =1$
したがって
$$d{{\left( A(\theta )B(\phi ) \right)}^{2}}=1-{{(-\cos (\theta -\phi ))}^{2}}={{\sin }^{2}}(\theta -\phi )$$
これから$\theta - \phi = 0$,すなわちアリスとボブで同じ方向を測るときは$d{{\left( A(\theta )B(\phi ) \right)}^{2}}=0$
となり,ボブ(アリス)がスピンの方向を測るとアリス(ボブ)のスピンの方向は確定する。
$\theta - \phi ~ \phi/2$ すなわち直交方向のとき$d{{\left( A(\theta )B(\phi ) \right)}^{2}}=1$
ボブ側で上(下)であっても,アリス側では左右が同じ確率で測定され不確定性は最大となる。
2022年11月29日火曜日
EPR(アインシュタイン・ポドルスキー・ローゼン)のパラドックスの話
ちょっと(かなり?)専門的な話です。
2022年のノーベル物理学賞は量子論の発展に大きな寄与をしたクラウザー,アスペ,ザイリンガーの3氏が受賞した。クラウザーとアスペ氏の受賞はいわゆるEPRパラドックスに対する回答としてベルの不等式の破れを示したことだ。ベルの不等式の話はいろいろなところで見らるが,その発端となったEPRパラドックスの量子論的な解釈はあまりみない。
いわゆるEPRパラドックスの論文はPhys.Rev.47, 777(1935)に掲載された。そのなかでアインシュタイン,ポドルスキー,ローゼンは量子もつれ状態を例にして量子論が不完全であると主張している。
EPRパラドックスとは
まず,EPRパラドックスの復習。ここはアインシュタイン21世紀の物理学(日本物理学会編)第7章の清水明氏の解説を引用する。
二つの粒子1,2の状態
\begin{align} & \varphi ({{x}_{1}},{{x}_{2}})=\frac{1}{2\pi }\int{{{e}^{ik({{x}_{1}}-{{x}_{2}}+{{x}_{0}})}}dk} \nonumber \\ & =\frac{1}{2\pi }\int{{{e}^{ik{{x}_{1}}}}{{e}^{-ik({{x}_{2}}-{{x}_{0}})}}dk} \end{align}EPR論文では粒子1の測定後の波動関数(状態)を $${{\varphi }_{{{k}_{0}}}}({{x}_{1}},{{x}_{2}})={{e}^{i{{k}_{0}}{{x}_{1}}}}{{e}^{-i{{k}_{0}}({{x}_{2}}-{{x}_{0}})}}$$ として,その状態に対して粒子2の運動量の測定を行っている。 分かりやくするため,これをスピン0の量子もつれ状態 $\left| \varphi \right\rangle =\frac{1}{\sqrt{2}}\left( {{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}-{{\left| -1 \right\rangle }_{1}}{{\left| 1 \right\rangle }_{2}} \right)$ で考える。量子論におけるこの状態の粒子1に対する 方向のスピンの測定は \begin{align} & s_{z}^{1}\left| \varphi \right\rangle =\frac{1}{\sqrt{2}}\left( s_{z}^{1}{{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}-s_{z}^{1}{{\left| -1 \right\rangle }_{1}}{{\left| 1 \right\rangle }_{2}} \right) \nonumber \\ & =\frac{1}{\sqrt{2}}\left( {{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}+{{\left| -1 \right\rangle }_{1}}{{\left| 1 \right\rangle }_{2}} \right) \end{align} である。しかしEPR論文の記述は粒子1の測定によって2つの項のうちどちらかを選択していることに対応する。第1項を選んだとすると, $${{\left| \varphi \right\rangle }_{1}}={{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}$$ それに対して粒子2のスピンを測定を行うと, $$s_{z}^{2}{{\left| \varphi \right\rangle }_{1}}=s_{z}^{2}{{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}=-{{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}$$ 量子論を正しく適用すると粒子1の測定後に粒子2を測定することは \begin{align} & s_{z}^{2}s_{z}^{1}\left| \varphi \right\rangle =\frac{1}{\sqrt{2}}s_{z}^{2}\left( s_{z}^{1}{{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}-s_{z}^{1}{{\left| -1 \right\rangle }_{1}}{{\left| 1 \right\rangle }_{2}} \right)=\frac{1}{\sqrt{2}}s_{z}^{2}\left( {{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}+{{\left| -1 \right\rangle }_{1}}{{\left| 1 \right\rangle }_{2}} \right) \nonumber \\ & =\frac{1}{\sqrt{2}}\left( -{{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}+{{\left| -1 \right\rangle }_{1}}{{\left| 1 \right\rangle }_{2}} \right) \\ & =-\left| \varphi \right\rangle \end{align} である。量子もつれ状態$\left| \varphi \right\rangle$は連続測定演算子$s_{z}^{2}s_{z}^{1}$の固有状態であり,粒子1,2の連続測定によって粒子2のスピンは確定した値をとる。量子論の計算には ${{\left| 1 \right\rangle }_{1}}{{\left| -1 \right\rangle }_{2}}$と${{\left| -1 \right\rangle }_{1}}{{\left| 1 \right\rangle }_{2}}$の干渉項が含まれるのに対して,EPRは粒子1の測定によってもつれ状態(コヒーレンス)を壊しているのでそれが含まれない。ただし,量子論でも干渉項が測定に寄与するのは粒子1と粒子2について任意の異なる方向でスピンを測定した場合である。双方で 同じ方向の測定した場合や90°ずらした場合は量子論と古典論の違いは現れない。これを考慮して,量子論と古典論の違いを評価したのがベルの不等式である。
2粒子の波動関数の位置と運動量の測定の不確定性関係を,状態に対する連続測定,すなわち ${{\hat{p}}_{1}}{{\hat{p}}_{2}}\varphi ({{x}_{1}},{{x}_{2}})$と${{\hat{x}}_{1}}{{\hat{x}}_{2}}\varphi ({{x}_{1}},{{x}_{2}})$で議論する。
2粒子系のもつれ状態を$\left| \varphi \right\rangle$とし,この状態について,粒子1,2に対する位置と運動量の演算子をそれぞれ, ${{\hat{x}}_{1}},\ {{\hat{x}}_{2}},\ {{\hat{p}}_{1}},\ {{\hat{p}}_{2}}$とする。粒子1,2の測定によって粒子2の位置が確定することは, $\left| \varphi \right\rangle$が連続測定の演算子${{\hat{x}}_{2}}\ {{\hat{x}}_{1}}$の固有状態 $$ {{\hat{x}}_{2}}{{\hat{x}}_{1}}\left| \varphi \right\rangle ={{x}_{2}}({{x}_{1}})\left| \varphi \right\rangle $$ を意味する。$x_2(x_1)$は粒子1の位置の測定の関数としての粒子2の位置を表す。 (一般に$\left| \varphi \right\rangle$は${{\hat{x}}_{1}},\ {{\hat{x}}_{2}}$ の固有状態ではない。)
運動量も同様に $$ {{\hat{p}}_{2}}{{\hat{p}}_{1}}\left| \varphi \right\rangle ={{p}_{2}}({{p}_{1}})\left| \varphi \right\rangle $$ である。$\left| \varphi \right\rangle$は位置,運動量の連続測定演算子の固有状態なので, $$\delta ({{x}_{1}}{{x}_{2}})=\delta ({{p}_{1}}{{p}_{2}})=0$$ したがって ロバートソンの不確定性関係 $$ {{(\delta {{x}_{1}}{{x}_{2}})}^{2}}{{(\delta {{p}_{1}}{{p}_{2}})}^{2}}\ge \frac{{{\left| \left\langle \varphi \right|\left[ {{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}},{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}} \right]\left| \varphi \right\rangle \right|}^{2}}}{4} $$ の右辺は \begin{align} & \left[ {{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}},{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}} \right]\left| \varphi \right\rangle ={{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}}\left| \varphi \right\rangle -{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}}{{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}}\left| \varphi \right\rangle \nonumber \\ & ={{x}_{2}}({{x}_{1}}){{p}_{2}}({{p}_{1}})\left| \varphi \right\rangle -{{p}_{2}}({{p}_{1}}){{x}_{2}}({{x}_{1}})\left| \varphi \right\rangle \\ & =0 \end{align} となるはずである。しかし,交換関係を計算すると, [\begin{align} & \left[ {{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}},{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}} \right]={{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}}-{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}}{{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}} \nonumber \\ & ={{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{p}}}_{2}}-{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}}{{{\hat{x}}}_{2}} \nonumber \\ & ={{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{p}}}_{2}}-({{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{1}}-i\hbar )({{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{p}}}_{2}}-i\hbar ) \nonumber \\ & ={{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}}{{{\hat{x}}}_{2}}-{{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{p}}}_{2}}_{2}+i\hbar {{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{1}}+i\hbar {{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{p}}}_{2}}+{{\hbar }^{2}} \\ & =i\hbar {{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{1}}+i\hbar {{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{p}}}_{2}}+{{\hbar }^{2}} \end{align} これから, $$ \left\langle \varphi \right|\left[ {{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}},{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}} \right]\left| \varphi \right\rangle =i\hbar \left\langle \varphi \right|{{\hat{x}}_{1}}{{\hat{p}}_{1}}\left| \varphi \right\rangle +i\hbar \left\langle \varphi \right|{{\hat{x}}_{2}}{{\hat{p}}_{2}}\left| \varphi \right\rangle +{{\hbar }^{2}}\left\langle \varphi \right.\left| \varphi \right\rangle $$ 第3項は$\left\langle \varphi \right|{{\hbar }^{2}}\left| \varphi \right\rangle ={{\hbar }^{2}}$ 第1,第2項は状態によるっていろいろな値ととるが,一般に $$ \left\langle \varphi \right|\left[ {{{\hat{x}}}_{1}}{{{\hat{x}}}_{2}},{{{\hat{p}}}_{1}}{{{\hat{p}}}_{2}} \right]\left| \varphi \right\rangle \ne 0 $$ は言える。位置と,運動量のもつれ状態は不確定性原理と矛盾する。
EPR論文で考察された波動関数は \begin{align} & \varphi ({{x}_{1}},{{x}_{2}})=\frac{1}{2\pi }\int{{{e}^{ik({{x}_{1}}-{{x}_{2}}+{{x}_{0}})}}dk} \nonumber \\ & =\frac{1}{2\pi }\int{{{e}^{ik{{x}_{1}}}}{{e}^{-ik({{x}_{2}}-{{x}_{0}})}}dk} \end{align} これに対して粒子1,2連続測定の運動量演算子を作用させると \begin{align} & {{{\hat{p}}}_{2}}{{{\hat{p}}}_{1}}\varphi ({{x}_{1}},{{x}_{2}})=\frac{1}{2\pi }(-i\hbar ){{{\hat{p}}}_{2}}\frac{\partial }{\partial {{x}_{1}}}\int{{{e}^{ik{{x}_{1}}}}{{e}^{-ik({{x}_{2}}-{{x}_{0}})}}dk} \nonumber \\ & =\frac{1}{2\pi }(-i\hbar ){{{\hat{p}}}_{2}}\int{\frac{\partial }{\partial {{x}_{1}}}{{e}^{ik{{x}_{1}}}}{{e}^{-ik({{x}_{2}}-{{x}_{0}})}}dk} \nonumber \\ & =\frac{1}{2\pi }(-i\hbar ){{{\hat{p}}}_{2}}\int{ik{{e}^{ik{{x}_{1}}}}{{e}^{-ik({{x}_{2}}-{{x}_{0}})}}dk}=\frac{1}{2\pi }\hbar {{{\hat{p}}}_{2}}\int{k{{e}^{ik{{x}_{1}}}}{{e}^{-ik({{x}_{2}}-{{x}_{0}})}}dk} \nonumber \\ & =\frac{1}{2\pi }\hbar (-i\hbar )\frac{\partial }{\partial {{x}_{2}}}\int{-i{{k}^{2}}{{e}^{ik{{x}_{1}}}}{{e}^{-ik({{x}_{2}}-{{x}_{0}})}}dk} \nonumber \\ & =-\frac{{{\hbar }^{2}}}{2\pi }\int{{{k}^{2}}{{e}^{ik{{x}_{1}}}}{{e}^{-ik({{x}_{2}}-{{x}_{0}})}}dk} \end{align} となり$\varphi$は${{\hat{p}}_{2}}{{\hat{p}}_{1}}$の固有状態にはならない。すなわち粒子1,2の連続測定によって粒子2の運動量は確定した値を得ない。
同様の計算を位置の演算子${{\hat{x}}_{2}}{{\hat{x}}_{1}}$に対して行う。 \[\begin{align} & {{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{x}}}_{1}}\varphi ({{x}_{1}},{{x}_{2}})=\frac{1}{2\pi }{{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{x}}}_{1}}\int{{{e}^{ik({{x}_{1}}-{{x}_{2}}+{{x}_{0}})}}dk} \nonumber \\ & ={{{\hat{x}}}_{2}}{{{\hat{x}}}_{1}}\delta ({{x}_{1}}-{{x}_{2}}+{{x}_{0}}) \nonumber \\ & ={{x}_{2}}{{x}_{1}}\delta ({{x}_{1}}-{{x}_{2}}+{{x}_{0}}) \end{align}\] $x_2x_1$は変数なので$\varphi$は${{\hat{p}}_{2}}{{\hat{p}}_{1}}$は$\varphi$は${{\hat{p}}_{2}}{{\hat{p}}_{1}}$の固有状態ではない。 したがって,量子論の立場からはEPR論文の議論は成り立たない。
量子論とEPRの考察のどちらが正しいかは実験で決めるべきこと。量子論が正しいという見地からEPR論文の問題点は以下の2つ。
- 粒子1の位置(や運動量やスピンのz成分)を行うことによって,複数の状態の重ね合わせから特定の位置(や運動量やスピンのz成分)を選び出し,それに対して粒子2の測定を行っている。これは粒子1と粒子2の測定が独立ではなく局所実在性の仮定に反している。量子論の場合,演算子を複数の状態に作用させたと考え,特定の状態を選び出してはいない。
- EPR論文で議論されている波動関数は位置や運動量の連続測定の固有状態ではない。したがって量子論による量子もつれ粒子1の測定による粒子2の測定値の決定という議論は成り立たない。
では粒子1が上向き,粒子2が下向きという状態になる(いわゆる波束の収束)が起こる)のはいつの時点か?この考察では答えを与えていない。粒子1と粒子2はそれぞれ独立に測定を行い,それぞれの観測者は選択的観測を行っている。その独立した測定の結果の整合性を調べると量子論に基づいた連続測定が正しい答え(実験と一致)を与えるということである。
2022年8月8日月曜日
ウクライナ侵攻と抑止力の話
ロシアのウクライナ侵攻から半年になろうとしている。いまだに停戦に向けた進捗がみられないのは,残念な限りだ。
ロシアの侵攻開始から現在の状況について,まるでそれを予言したような論考を見つけた。海幹校戦略研究2015年12月号に「抑止概念の変遷 多層化と再定義」という論考がある。そのなかで,冷戦期の北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構(WTO)の関係の考察が今のウクライナとロシアの関係に非常によく当てはまる。
それによると;
1983年にミアシャインマーという人が「通常戦力と抑止」を出版している。(John Mearsheimer, Conventional Deterrence, Cornell University Press, 1983.)
冷戦期WTOはNATOより通常戦力ににおいて圧倒しており,開戦となるとWTOが電撃的勝利と収める公算が高いとされていた。ミアシャインマーの考察はそれに対する反論であり,以下のような話だ。
- NATOの通常戦力は劣勢であっても有効な展開によってWTOが電撃的に勝利することはできない。
- WTOは限定的勝利をしたのち,それを防御する方に回らざるを得えず,それ以降消耗戦となる。
- ロシアは当初キーウを2週間程度で電撃的に制圧すると考えて侵攻したが失敗した。
- その後東部を侵攻したがウクライナの抵抗にあって膠着状態が続いている。
- HIMARSに代表される精密誘導兵器によってロシアは兵站を中心に大きな打撃を受けており,苦戦していると言われている。