2022年2月17日木曜日

冬のスポーツの物理4:スキージャンプ

 スキーのジャンプ競技は空力との戦い。複雑すぎて定量的な話はとても無理。

まず,参考文献。スパコンも動員してジャンプの空力を研究した話だ。このお話は参考文献の私なりの解釈です。

よく知られているように,スキージャンプはジャンプといっても斜面に沿って落下しているようなものだ。踏切では体を大きく前に投げ出して,ほとんど水平に近い形になる。しかし、そもそも飛んでいく方向が下向きなので,進行方向と体の角度,いわゆる仰角はとても大きくなる。これがジャンプの特徴だ。図はその様子を表している。


 ジャンプの空力特性は飛行機の翼と同じように考えることができる。進行方向に向かって仰角をとることによって翼(体)の下側の空気が曲げられ,下から押される力が働く。忘れてはいけないのは翼(体)の上を通る気流も体に沿って曲がるということだ。これをコアンダ効果という。これによって翼(体)には上に引っ張り上げられる力もはたらく。飛行のときにはこれらが合わさって,気流から進行方向と反対向けに受ける抵抗「効力」と,上に持ち上げる力「揚力」が発生する。

               参考文献をもとに筆者作成

 飛行機の飛行とスキーのジャンプは仰角に大きな違いがある。飛行機はエンジンを使って前向きの推力を得ている。なので仰角が小さくても充分な揚力を超えることができる。この状況で仰角が大きすぎると,効力、すなわち進行方向に対する抵抗が大きくなるので得策ではない。

 スキーのジャンプはエンジンのような推力をもたない。それに代わるものは重力だけだ。その結果飛行機と比べると大きな仰角をとって揚力を得ている。飛行機が水平飛行しているとの仰角は3°から5°くらい。離陸のときは大きな仰角をとって揚力をえるがそれでも15°程度のようだ。スキーのジャンプの仰角は最大で40°近くになる*。仰角が大きくなればなるほど揚力も大きくなるのだがどこまでも大きくすればよいというものではない。仰角が大きすぎるとコアンダ効果が働かなくなり,体の上側の空気が体にそって流れなくなる。これは飛行機の翼でも起こりうることでいわゆる失速状態だ。こうなってしまうと安定した飛行ができなくなり落下してしまう。ジャンプで遠くに飛ぶコツはいかにしてこの安定した飛行体勢を続けるか。適切な抗力と揚力をえる仰角を維持するかだ。適切な仰角は時々刻々と変化していることを忘れてはいけない。

 スキージャンプのもう一つの大きなポイントは踏み切り(サッツ)。選手は時速90キロ近くで踏み切って飛行体勢に移る。そのときいかに早く安定した飛行体勢をとることができるかが勝負のポイントになる。それだけではない。ジャンプ台を滑り降りている姿勢から飛行体勢になるときには,体の形状が大きく変わる。そのときは体の後ろ側の気流も大きく乱れるだろう。理想的な翼の形とはかけ離れている状態だ。いかにして気流をを乱すことなく素早く安定した飛行体勢に移るか。とても難しそうだ。

 助走から踏み切りで安定した飛行体勢に移る。その飛行体勢を長く安定に維持する。これがジャンプの主要なポイントのようだ。適切な飛行体勢,例えば仰角は時事刻々と変わっている。風も吹いている。風の状況がジャンプの結果に大きく影響するのはテレビ中継を見ていてもよくわかる。

ところでいいジャンプの条件は調べるとある程度分かる。だが選手はそれを実現するためにどういう動作をすれば良いのだろう?どのようなトレーニングをすれば良いのだろう?

滑走から飛行体勢への大きな変化。飛行中も風の変化。一流のジャンパーはこの状況を的確に把握して対応し遠くに飛ぶ技術を身につけている。どうやっているのだろう。ビデオ,最近では流体力学のシミュレーション,それらを見ながら試行錯誤して理想的な飛び方を体得して行くしかないのだろうか。小林陵侑選手に代表される一流選手と他の選手は何が違うのかなあ。。。

「風をつかむ能力に秀でている?それは一体何?」


*仰角は飛行中に大きく変化する。踏み切りのとき選手は下向きに飛び出すので仰角は負になる。そのあとすぐ正の角度になる。着地直前には40°近くになるようだ。


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