2015年8月15日土曜日

コード(和音)の話II

  時々書いているけど,私達の研究室では毎年,夏の学校と称して合宿を行っている。
4年生は4月から勉強してきた卒業研究に向けた成果を,院生とスタッフは何か科学に関するネタを話すことになっている。今年の開催地は,久しぶりに,大山にある中国・四国国立大学共同研修所だった。
 毎年何かネタを考えなければならないので,この時期になると頭を悩ませる。学生さんの手前あまりいい加減なことはできないし,,,ちなみに昨年は「野球の打順について考えてみた」だった。今年は,どうしようか迷ったが一昨年考えて中途半端だった音楽のコード(和音)の話題に再挑戦することにした。 結論から言うと,今年もやっぱりなんだか分からないということなので,この先を読んでいただける方は予めご了承願いたい。それと途中で数式とかグラフとかがでてくるので,慣れていない方には難解かも知れない。コードの表し方,A,B,C,,,I, II, III ,,なども説明なしにでてくるのでご容赦願いたい。また,文中にリンクしている音声ファイルはwavである。


本題。
皆さん,この曲名を見て共通点が思い浮かぶだろうか。

 負けないで  ZARD)
 少年時代  (井上陽水)   
 真夏の果実  (サザンオールスターズ)
 翼をください  (赤い鳥)
 さくら   (森山直太朗)
  .。。。。。

最初の3つの一部(と最後におまけ)を聞くとこんな感じだ。(分かりやすいようにみなC(ハ長調)に移調している。) すべてベースの音がド,シ,ラ,ソ,,,と下がっているのが分かるだろうか。
聞いてもらった部分はすべてコードの進み方,つまり,コード進行が同じ;

C->G->Am->Em->F->G (I->V->VIm->IIIm->IV->V)

となっている。(曲によってはアレンジあり)
4番目の曲は,実はパッハルベルのカノン,1680年代に作られたバロックの有名な曲だ。これにちなんで,このコード進行はカノン進行と名前がついている。300年以上経た今でもJ-POPで多用されているなど人気のコード進行だ。

もう一つの有名な例;

 会いたかった AKB48
 フライングゲット AKB48)
 残酷な天使のテーゼ (高橋洋子)
 RUNNER (爆風スランプ
 言葉にできない (小田和正)
 。。。。。


このコード進行は

  Am->F->G->C  (VIm->IV->V->I)

小室哲哉さんの曲によく現れるということで,小室進行とも言われているようだ。マキタスポーツさんの著書「すべてのJ-POPはパクリである」のなかではドラマチックマイナーと名付けられている。もっとも,このコード進行も最近できたもではない。筆者は数十年前に音楽教室に通っていたが,そこでも VIm->IV->V->I (ろくよんごーいち)と,呪文のように習っていた。
他にも王道進行(IV7->V7->IIIm7->VIm )と呼ばれるような有名なコード進行もあるし,我が研究室(の一部?)で大人気のPerfumeは(IVM7->IIIm7->IIm9->IIIm7)をよく使うということだ。

 
さて,ここからが本当の本題

このようなコード進行に何か法則を見いだすことができるだろうか。人の主観に科学的な法則を探すという無謀なことなのだが,夏の学校のネタということでとにかく挑戦したのだ。

コード進行の話をするためには,まずコードの成り立ちを考えなければならない。2年前はこの話をしたのだった。再考してみよう。以下簡単な復習も兼ねるが,詳細はそちらを参照してほしい。そこにも書いているが,現在広く使われている音階は平均律と言い,1オクターブ(周波数が2倍)を12の均等な比に分割している。
式で書くと


f0は基準の周波数。通常は真ん中のラ(A)の音を440Hzとすることが多い。
すると(イ長調の)ドレミファソラシドは,
i = 0, 2, 4, 5, 7, 9, 11, 12
Aメジャーコードの周波数(純正率)
それらしくみえるようにわざと
幅を持たせている。
となる。だが,2年前にも議論したように,平均律を使うと,音と音の高さ(周波数)の比が単純な整数にならない。和音の響きは結局のところ音の周波数の関係に帰着できると考えられるが,この議論は平均律では難しい。たとえば,Aメジャーコードのド,ミ,ソの周波数は,440Hz,554Hz, 659Hzとなって,その関係が分かりにくい。そこで,音と音の周波数比をもとの音階を定めたものとして,純正律が知られている。平均律を使うとAメジャーコードの周波数は440Hz, 550Hz, 660Hzときっちりと4:5:6の関係になる。[1]
ちょっと面倒な計算が入るがこれを考えてみよう。(以下の話は2年前の考察には無かった。)
ある音の周波数をfと書くと,その音の振動は

だ。

なのでAの音(440Hz)の周波数をfAと書くと,Aメジャーコードの振動は

となる。

 
周波数の様子をみると,真ん中の音Df(ディーフラット)を中心に左右に等間隔に周波数が並んでいる。これを意識して上の式をこれを書き換えるとこうなる。

慣れた人には直ぐ分かると思うが,一番下の行は,は周波数fdをその1/5の周波数(110Hz)で振幅変調したことになっている。音の振動の様子をが下上,fd(業界はキャリアとか搬送波と言う。)と変調周波数に分けて書いたのが下図だ。これをみると,音の振動に110Hzの構造があるのが理解できる。

メジャコードの音振動(上)
下は振幅変調の表した時の
キャリアと変調周波数を
重ねたもの
メジャーコードは,3つの音の周波数構成から理解できることが分かった。3つの真ん中の高さの音(III)を,その1/5の周波数で振幅変調している。それがきれいな響きのもとになっていると考えられる。それでは,真ん中の音の1/4や1/3の周波数で振幅変調したらどうなるのだろうか。計算すると,1/4で変調した場合は,別のメジャーコード(今の場合は,D♭),1/3で変調すると,上下の周波数比が丁度2倍(1オクターブ)となるので,3音のコードができないことがわかる。

 ではマイナーコードはどうなっているのだろう。これはメジャーコードように3音の間に明確な周波数の関係をつけることができない。一番低い音(I)と,高い音(V){の周波数比はメジャーコードと同じく,1:1.5になっているが,Iと真ん中(IIIm)とは1:1.2(メジャーコードは1:1.25)。したがってメジャーコードと同じような解釈はできないのだが,ここは大胆に仮定してみる。マイナーコードについても,メジャーコードと同じような計算をすると,





第1項はDfの音にその1/5の周波数の振動をかけた形をしている。第2項はメジャーコードではfdだったが,少しずれた音だ。とにかく,上図と同じように振動の様子を見てみよう。

マイナーコードの音振動(上)
下図はメジャーコードの図と同じ
この図の下の部分はメジャーコード図と同じものだ。これをみると,マイナーコードもDfの振動にその0.2倍の周波数の振幅変調をしているが,周波数の関係がメジャーコードの場合のようにちゃんとした比になっていないことを反映して,波形がひずんでいると考えることができると考えることができそうだ。
かなり大胆な仮定だが。。









コード進行の考察

いままで話したコードの考察から,コード進行について以下の仮定をしてみた。

  • メジャーコードは真ん中(III)の音をその1/5倍の周波数で振幅変調したものである。IIIの音がそのコードの性質を代表する。他のコードへのつながりを考える時は,IIIのからのつながりを考る。
  • マイナーコードもその構造はメジャーコードと同じだが,周波数比が単純な整数でないため,音がひずんでいる。しかし,IIIの音がそれを代表することはメジャーコードと同じ。

さて,これから,コード進行,即ち,音と音のつながりを考えるのだが,これに明確な指針はない。
とりあえず,3音からなるコードを1音で表すところまで簡略化したので,コード進行もその音と音の関係,つまり不協和音の度合いをから考えてみよう。
よく言われることがだ,人が二つの高さの音を聞いた時に,そのを不協と感じかどうかは,二つの音の周波数比が指標となる。一般に,周波数比が簡単な整数の時は協和,複雑な時は不協と言われる。これは人主観を数値で表したものなので,演繹的に導出できるものではない。仮定としていけいれよう。(実は,前項のメジャーコードとマイナーコードの考察もこれを暗黙に仮定している。)

例えば,AとDfの音の周波数比は5/4(純正率長3度)。
同時に聞くとこんな音だ。
一方もっとも,不協といわれているAとDf,周波数比は64/45
こんな音だ

すると,コード進行も協和音にそって進行するのではないか?と考えて,各コードのIII音の比を表にした。

     I    IIm    IIIm     IV     V     VIm    VIIm
I   1/1  256/225  32/25   4/3    3/2    5/3   48/25
IIm 225/256   1/1    9/8   75/64 675/512 375/256  27/16
IIIm  25/32   8/9    1/1   25/24  75/64 125/96   3/2 
IV   3/4   64/75  24/25   1/1    9/8    5/4   36/25
V   2/3  512/675  64/75   8/9    1/1   10/9   32/25
VIm   3/5  256/375  96/125   4/5    9/10   1/1  125/144
VIIm  25/48  16/27   2/3   25/36  25/32 125/144   1/1 

これをみると,255/225など大きな整数比,3/2などの小さな整数比の組がある。これにそって,たとえば,大きな整数比にそってコードを進めるとあまり気持ちよくなく,小さな整数比だと心地よいのだろうか。ものは試しだ。


5つのコード進行を並べている。

それぞれのコード進行は,

 1 表から組み合わせが良くないと考えられる進行 (IIm->V->IIIm->VIm->IIm)
 2 表から組み合わせが良くないと考えられる進行   (I->IIm->VIm->VIIm)
 3 表から組み合わせが良いと考えられる進行        (I->VIm->IV->V)
 4 最も基本的な I->IV->V->V7->I 進行 
 5 いわゆる小室進行 VIm->IV->V->I

聞いた印象はどうだろうか


ということで,コードについて再考してみた。メジャーコードを振幅変調という観点から理解できたのは良かったかな。音楽理論などは全く調査していないので,これが何を意味するのかまでは考察に至っていないが,面白そうなのでしらべてみようか?
コード進行については,ますます人の主観に関することなので,そもそもどのように考察すべきかも定かではない。やっみた以上のことはなかったが,いわゆる音楽理論なるもので言われているコード進行と比較してみるのもの一興だろうが,来年の夏かな。。。。


[1]12音階の平均律と純正律のずれを改善した,53音階純正律というのもある。
例えが,木村俊一著 「連分数の不思議」に考察がある。

[2]この考察をするにあたって,
マキタスポーツ 著 「すべてのJ-POPはパクリである」
を参考にしました。








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