4年生は4月から勉強してきた卒業研究に向けた成果を,院生とスタッフは何か科学に関するネタを話すことになっている。今年の開催地は,久しぶりに,大山にある中国・四国国立大学共同研修所だった。
毎年何かネタを考えなければならないので,この時期になると頭を悩ませる。学生さんの手前あまりいい加減なことはできないし,,,ちなみに昨年は「野球の打順について考えてみた」だった。今年は,どうしようか迷ったが一昨年考えて中途半端だった音楽のコード(和音)の話題に再挑戦することにした。 結論から言うと,今年もやっぱりなんだか分からないということなので,この先を読んでいただける方は予めご了承願いたい。それと途中で数式とかグラフとかがでてくるので,慣れていない方には難解かも知れない。コードの表し方,A,B,C,,,I, II, III ,,なども説明なしにでてくるのでご容赦願いたい。また,文中にリンクしている音声ファイルはwavである。
本題。
皆さん,この曲名を見て共通点が思い浮かぶだろうか。
負けないで
少年時代 (井上陽水)
真夏の果実 (サザンオールスターズ)
翼をください (赤い鳥)
さくら (森山直太朗)
.。。。。。
最初の3つの一部(と最後におまけ)を聞くとこんな感じだ。(分かりやすいようにみなC(ハ長調)に移調している。) すべてベースの音がド,シ,ラ,ソ,,,と下がっているのが分かるだろうか。
聞いてもらった部分はすべてコードの進み方,つまり,コード進行が同じ;
となっている。(曲によってはアレンジあり)
Am->F->G->C (VIm->IV->V->I)
4番目の曲は,実はパッハルベルのカノン,1680年代に作られたバロックの有名な曲だ。これにちなんで,このコード進行はカノン進行と名前がついている。300年以上経た今でもJ-POPで多用されているなど人気のコード進行だ。
もう一つの有名な例;
会いたかった( AKB48)
フライングゲット( AKB48)
残酷な天使のテーゼ (高橋洋子)
RUNNER (爆風スランプ)
言葉にできない (小田和正)
もう一つの有名な例;
会いたかった
フライングゲット
残酷な天使のテーゼ (高橋洋子)
RUNNER (爆風スランプ
言葉にできない (小田和正)
。。。。。
このコード進行は
小室哲哉さんの曲によく現れるということで,小室進行とも言われているようだ。マキタスポーツさんの著書「すべてのJ-POPはパクリである」のなかではドラマチックマイナーと名付けられている。もっとも,このコード進行も最近できたもではない。筆者は数十年前に音楽教室に通っていたが,そこでも VIm->IV->V->I (ろくよんごーいち)と,呪文のように習っていた。
他にも王道進行(IV7->V7->IIIm7->VIm )と呼ばれるような有名なコード進行もあるし,我が研究室(の一部?)で大人気のPerfumeは(IVM7->IIIm7->IIm9->IIIm7)をよく使うということだ。
さて,ここからが本当の本題
このようなコード進行に何か法則を見いだすことができるだろうか。人の主観に科学的な法則を探すという無謀なことなのだが,夏の学校のネタということでとにかく挑戦したのだ。
コード進行の話をするためには,まずコードの成り立ちを考えなければならない。2年前はこの話をしたのだった。再考してみよう。以下簡単な復習も兼ねるが,詳細はそちらを参照してほしい。そこにも書いているが,現在広く使われている音階は平均律と言い,1オクターブ(周波数が2倍)を12の均等な比に分割している。
式で書くと
f0は基準の周波数。通常は真ん中のラ(A)の音を440Hzとすることが多い。
すると(イ長調の)ドレミファソラシドは,
Aメジャーコードの周波数(純正率) それらしくみえるようにわざと 幅を持たせている。 |
ちょっと面倒な計算が入るがこれを考えてみよう。(以下の話は2年前の考察には無かった。)
だ。
なのでAの音(440Hz)の周波数をfAと書くと,Aメジャーコードの振動は
となる。
周波数の様子をみると,真ん中の音Df(ディーフラット)を中心に左右に等間隔に周波数が並んでいる。これを意識して上の式をこれを書き換えるとこうなる。
慣れた人には直ぐ分かると思うが,一番下の行は,は周波数fdをその1/5の周波数(110Hz)で振幅変調したことになっている。音の振動の様子をが下上,fd(業界はキャリアとか搬送波と言う。)と変調周波数に分けて書いたのが下図だ。これをみると,音の振動に110Hzの構造があるのが理解できる。
メジャコードの音振動(上) 下は振幅変調の表した時の キャリアと変調周波数を 重ねたもの |
ではマイナーコードはどうなっているのだろう。これはメジャーコードように3音の間に明確な周波数の関係をつけることができない。一番低い音(I)と,高い音(V){の周波数比はメジャーコードと同じく,1:1.5になっているが,Iと真ん中(IIIm)とは1:1.2(メジャーコードは1:1.25)。したがってメジャーコードと同じような解釈はできないのだが,ここは大胆に仮定してみる。マイナーコードについても,メジャーコードと同じような計算をすると,
第1項はDfの音にその1/5の周波数の振動をかけた形をしている。第2項はメジャーコードではfdだったが,少しずれた音だ。とにかく,上図と同じように振動の様子を見てみよう。
マイナーコードの音振動(上) 下図はメジャーコードの図と同じ |
かなり大胆な仮定だが。。
コード進行の考察
いままで話したコードの考察から,コード進行について以下の仮定をしてみた。
- メジャーコードは真ん中(III)の音をその1/5倍の周波数で振幅変調したものである。IIIの音がそのコードの性質を代表する。他のコードへのつながりを考える時は,IIIのからのつながりを考る。
- マイナーコードもその構造はメジャーコードと同じだが,周波数比が単純な整数でないため,音がひずんでいる。しかし,IIIの音がそれを代表することはメジャーコードと同じ。
さて,これから,コード進行,即ち,音と音のつながりを考えるのだが,これに明確な指針はない。
とりあえず,3音からなるコードを1音で表すところまで簡略化したので,コード進行もその音と音の関係,つまり不協和音の度合いをから考えてみよう。
よく言われることがだ,人が二つの高さの音を聞いた時に,そのを不協と感じかどうかは,二つの音の周波数比が指標となる。一般に,周波数比が簡単な整数の時は協和,複雑な時は不協と言われる。これは人主観を数値で表したものなので,演繹的に導出できるものではない。仮定としていけいれよう。(実は,前項のメジャーコードとマイナーコードの考察もこれを暗黙に仮定している。)
例えば,AとDfの音の周波数比は5/4(純正率長3度)。
同時に聞くとこんな音だ。
一方もっとも,不協といわれているAとDf,周波数比は64/45
こんな音だ
すると,コード進行も協和音にそって進行するのではないか?と考えて,各コードのIII音の比を表にした。
I | |
|
IV | V | |
|
|
I | 1/1 | 256/225 | 32/25 | 4/3 | 3/2 | 5/3 | 48/25 |
225/256 | 1/1 | 9/8 | 75/64 | 675/512 | 375/256 | 27/16 | |
25/32 | 8/9 | 1/1 | 25/24 | 75/64 | 125/96 | 3/2 | |
IV | 3/4 | 64/75 | 24/25 | 1/1 | 9/8 | 5/4 | 36/25 |
V | 2/3 | 512/675 | 64/75 | 8/9 | 1/1 | 10/9 | 32/25 |
3/5 | 256/375 | 96/125 | 4/5 | 9/10 | 1/1 | 125/144 | |
25/48 | 16/27 | 2/3 | 25/36 | 25/32 | 125/144 | 1/1 |
これをみると,255/225など大きな整数比,3/2などの小さな整数比の組がある。これにそって,たとえば,大きな整数比にそってコードを進めるとあまり気持ちよくなく,小さな整数比だと心地よいのだろうか。ものは試しだ。
5つのコード進行を並べている。
それぞれのコード進行は,
1 表から組み合わせが良くないと考えられる進行 (IIm->V->IIIm->VIm->IIm)
2 表から組み合わせが良くないと考えられる進行 (I->IIm->VIm->VIIm)
3 表から組み合わせが良いと考えられる進行 (I->VIm->IV->V)
4 最も基本的な I->IV->V->V7->I 進行
5 いわゆる小室進行 VIm->IV->V->I
聞いた印象はどうだろうか
ということで,コードについて再考してみた。メジャーコードを振幅変調という観点から理解できたのは良かったかな。音楽理論などは全く調査していないので,これが何を意味するのかまでは考察に至っていないが,面白そうなのでしらべてみようか?
コード進行については,ますます人の主観に関することなので,そもそもどのように考察すべきかも定かではない。やっみた以上のことはなかったが,いわゆる音楽理論なるもので言われているコード進行と比較してみるのもの一興だろうが,来年の夏かな。。。。
[1]12音階の平均律と純正律のずれを改善した,53音階純正律というのもある。
例えが,木村俊一著 「連分数の不思議」に考察がある。
[2]この考察をするにあたって,
マキタスポーツ 著 「すべてのJ-POPはパクリである」
を参考にしました。
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