(メディアも当事者ですが,それにについては,後で議論します。)
科学コミュニケーションに関与する当事者と当事者間のコミュニケーションについて表にまとめました。(現代の事例から学ぶ サイエンスコミュニケーション ISBN 978-4-7664-2203-0 p14を参考,筆者による改変)。
当事者はもっと詳細な分け方も可能ですが,ここでは科学者と公衆のみを考えています。政策作成者は,コミュニケーションの手法としては,科学者と類似の方法をとることができると言う意味で,同様のカテゴリーとしました。
表:科学コミュニケーションの当事者と当事者間で行うコミュニケーション
実施者
| ||||||
科学者
|
肯定的
公衆 |
無関心な
公衆 |
否定的
公衆 |
一般的な
公衆 | ||
対象
|
科学者
|
委員会
|
公聴会
ネガティブ
キャンペーン | |||
肯定的公衆
|
講演会
市民討論会
サイエンスカフェ
パブコメ
(アンケート) |
講演会
|
ネガティブ
キャンペーン | |||
無関心な公衆
| (マスメディアを通じた宣伝) |
ネガティブ
キャンペーン | ||||
否定的公衆
|
公聴会
| |||||
一般的な公衆
|
講演会
市民討論会
サイエンスカフェ
パブコメ
(アンケート)
博物館
|
ネガティブ
キャンペーン |
表のなかで,問題となるのが空白の部分です。一般に公衆がコミュニケーションの実施側になることはあまりありませんが,科学者側からみた場合,無関心な公衆に対する部分が課題です。ここにアプローチする方法として,マスメディアを通じた宣伝が考えられますが,莫大な費用がかかることからこれまでに行われたことはありません。また,前例がないことから,その是非自体も議論となると考えられます。人口に占める割合としては,無関心な公衆が多数を占めることは十分に予想されるため,この点は大きな課題です。また否定的公衆に対して行えることが少ないことも問題です。
メディアについて
メディアはコミュニケーションの実施者と対象の間で両者の間を取り持つ役を果たします。しがって表の中に直接出ていませんが,情報を介在するものとして登場します。メディアとしては,マスメディアが代表的ですが,コミュニケーターや博物館学芸員もこの役を担います。またインターネットの発達はコミュニケーションの手法に大きな変化を起こしています。
マスメディア
テレビ,ラジオ,新聞,出版社などが代表的な媒体ですが,通信社のように情報をテレビ局や新聞社のような媒体に提供するメディアもあります。マスメディアによるコミュニケーションは,基本的に情報の提供者からの一方通行です。
マスメディアがコミュニケーションに関わる目的は何でしょうか? これは,メディアが報道するニュースの選択に関わります。マスメディアの公衆に対する影響の大きさを考えると、大きな論点です。
マスメディア自身が情報発信を行う場合
マスメディアは基本的に営利企業であり、配信した情報が公衆の興味と合致し、受け入れられることが重要です。したがって情報もその指針によって選択されます。日常的でない出来事や,流行にそった情報などです。この場合,マスメディアが独自の考え方で情報を選択し伝えるため,その意図は情報を伝えるメディアの意向を反映します。 伝える内容を専門的なトレーニングを受けていないものが作成する場合も多く、特に科学コミュニケーションの場合,情報の正確性や客観性が問題となることがあります。
マスメディアが専門家と公衆の間を仲介する場合。
科学者などがコミュニケーションを行う際に,メディアを通じて行うことがあります。記者会見が代表的な例でしょう。 情報の発信者は,ある目的をもってメディアに伝えます。(目的を明確にすることは重要な前提です。これが無いと会見を行っても、メディアから無視されてしまいます。) この場合も、情報の発信を行うかどうかも含めて、情報発信者の主体はメディアとなることに注意しなければなりません。 メディアに対して発信者側の意図が正しく伝わるか,伝わったとしても意図の通りに報道されるかは,報道されるまで分かりません。
情報発信側は,この事を十分に考慮し、定期的な勉強会を通じた情報提供や,メディアトレーニングの実施、メディアにとって発信しやすい内容の選択など、その目的を達成するための方策を検討し、実施する必要があります。
マスメディアの場合、情報の発信者がメディアであっても、科学者であっても、最終的な情報発信には、メディアによる解釈やその意向が介入します。誰が何の目的でコミュニケーションを図ろうとしているのか?その目的を反映したものなっているのかが,曖昧になることがあります。メディアによるコミュニケーションには,その事案に応じた考察が必要です。
コミュニケーター
コミュニケーターは,専門家と公衆の間に入り,情報の内容を理解しそれを伝えることを役割とします。 専門職としてのコミュニケーターがあるということではなく,イベントの企画者,博物館学芸員などがその役割を担うことが大半です。また,マスメディアの中にもその役目を担うものがいる場合があります。
科学コミュニケーターは,コミュニケーションの技術や知識に疎い科学者と,科学的素養が十分ではない一般公衆の間で,コミュニケーションをとりもち,その目的を達成させることが役割です。そのため,科学に対する理解(必ずしも専門知識を意味しない)と,コミュニケーション技術を兼ね備える必要があります。 また,サイエンスカフェなどのイベントを開催する場合には,その企画立案から実施までを取り仕切ることもあり,科学コミュニケーション全般にかかる幅広い知識が必要とされます。
科学コミュニケーターの場合も,メディアと同様に,コミュニケーター自身が情報発信する場合と,専門家と公衆の間を仲介する場合があります。
科学コミュニケーター自身が情報発信する場合,その目的は科学的知識の普及,科学の社会への理解促進など,科学と社会の関係促進をその理念とする場合が多く,経済的な利潤を追求する場面は少ないでしょう。 その一方で,サイエンスカフェなどの具体的なイベントを行う場合,「科学の社会への理解」などの目的が抽象的にすぎ,イベントの目的や対象が曖昧になってしまわないように,注意しなければいけません。
科学コミュニケータが科学者と公衆の仲介を行う場合は,マスメディアの場合と異なり,科学者の意図や目的は比較的反映されやすいでしょう。一方,専門的内容や情報の正確性にこだわる傾向のある科学者・専門家と入念に打合せを行い,当初の目的を達成するべく,事前の打合せや,イベントの構成を行う必要があります。そこにコミュニケーターとしての技能があると言っても良いと思います。
インターネット
インターネット自体は純粋なメディアであり,情報の発信者にはならないという意味でマスメディアやコミュニケーターとは一線を画します。組織の大小や地域に制限されずに情報を発信できるメディアであり,その方法もweb,SNSなど多様な広がりをもっています。大きな影響をもつメディアとなっている反面,フェイクニュースや炎上という言葉に代表されるように,情報の真偽,過剰な反響などが問題になってきています。
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